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第9話
とある室内
波留は差してきた日の光で目が覚めた
「……ん?」
もぞりと身体を動かすと自分に温かい布団が掛けられているのに気が付き反射で起き上がるが身体の節々が痛すぎて声にならない悲鳴をあげる
(い゙っ!?…なんで、布団が?)
昨日の出来事を思い返し吐き気すら催してくるがそんな中でどうして自分がふかふかのベッドに乗せられ介抱されているのかを不思議に思い首を傾げた
(まさかこれから人身売買とかに出されるとか…!?)
布団を握り青ざめながら夢だと思いたいがズキズキと痛む腰のおかげでこれが現実であるのだと教えてくれる
自分はこれからどうなってしまうのだろうかと不安になり少し涙を浮かべながら腰を強めに摩った
腰を摩ると、ご丁寧に新しい洋服まで着させられていることに気づく
(シャツ大きい……)
服はかなり大きめのTシャツ一枚で勿論のことながら下は履いていないというか履かされていない
重いため息をついて騒がず静かに腰を摩っていると部屋の扉がガチャリと開いた
「あれ?起きてたんだ」
部屋の中へと入って来たのは昨夜のお楽しみ仲間の1人で”組長”とか呼ばれていた綺麗な長い金髪の男だった
美形と言える端正な顔立ちで切長な新緑のような若草色の瞳が印象的で何もかも見透かされてしまいそうな雰囲気を漂わせている
「……」
昨夜の出来事がフラッシュバックし波留は反射的に警戒しベッドの端に掛け布団ごと移動すると身を縮こませ男を睨みつけた
「そんなに警戒しなくても…って無理か。ここ、俺の家で事務所とかそういうのじゃ無いから安心して。身体痛くない?」
怯え震えている波留を見て両腕を上げながら降参状態で近寄ってくる男に波留は警戒心は解かずに答える
「…痛くなかったら、起きあがって逃げ出してます」
自分のことをこれからどうするつもりなのかと目の前の男を見つめるが残念なことに何を考えているのか全く読み取れない
「ははっ!それもそうか!…ほら、お水持ってきたから飲みなよ」
その端正な顔つきからは想像もつかないほど子供のような無邪気な笑顔に波留は見惚れ、意外だなんて思ってしまう
「……ありがと、ございます」
目の前に差し出されたコップを少し眺め戸惑っていると何にも変なものは入れてないとこちらの考えを読み取られ、波留は恐る恐る水の入ったコップを受けとる
(ヤ、ヤクザの言うことなんて信用できないよ…)
でも此処で飲まなくては次は何をされるかわからない。波留は意を決してコップの淵に口をつけた
「ゆっくり飲みなよー?」
男にそう言われ何かの隠語なのかと怯えながら波留はコップを傾け注がれた水を口の中へと含むと飲み込む
冷たい水が渇き切った喉に染みて心地が良い
「っぷは…はぁっ…」
一度通した爽快感に抗えなく注がれた水を全て飲み終えると、いつの間にか男がベッドの淵へと腰掛けておりこちらを見つめていた
目が合うとなんだか逸らすことがしづらく男と目を合わせたまま無言の時間が数秒続く
「昨日は…ゴメンね」
そして沈黙を先に破ったのは男の方で、彼はベッドの上に正座をすると波留に向かって謝罪を述べ自身の頭を下げた
予想外すぎる行動に波留は考えていた言い訳が飛び頭が真っ白になるほど驚き、空になったコップを思わずその場に転がしてしまう
(ヤ、ヤクザが謝った…一般人に)
誰が想像できただろう。波留はあんぐりと口を開けることしかできなかった
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