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第10話

男は頭を上げると黙って呆けている波留を見て不思議そうに首を傾げるとその間抜けな顔を少し見つめたあと盛大に吹き出して笑いだす 「あははっ!すごい顔」 お腹を抱えて笑い出す男に波留は正気を取り戻し何故笑うのかを問う 「何笑ってるんですか…!わ、笑いすぎです…!」 そう言うと一頻り笑い終えたのか目の前の彼が目尻の涙を指で拭いながら短く謝り呼吸を整えだす 「…ごめんごめん。君の顔があまりにも面白くて…!はー…笑った」 男の陽気に喋ったり笑ったりする姿に波留は本当に裏社会の人間なのかと疑いすら持ってしまう 「波留にはかなり酷いことしちゃったし、しっかりと謝っておきたいなって思ったから」 怪訝そうに見つめていると男の口から不意に自分の名前が出てき、波留は解きそうになっていた警戒を今一度張り直す (名前知られてる…どうしよう) 相手の事前情報を調べことなど朝飯前な怖い世界であるのだと思い怯えることしか出来ない 意を決して何処まで調べているのかを聞くと波留自身はもちろんここ数年の周辺情報まできっちりと調べられており、恐怖で顔が青くなる 「急に黙ってどうしたの?」 悪びれる素振りも見せない目の前の男の小首をかしげる姿にしっかりと悪の部分をみせられた波留は大きく深呼吸をして自分の処遇を彼に聞いた 「貴方は俺をどうするつもりなんですか…人身売買で売られたりとか臓器提供とか薬の仲介とかさせられたり…そ、それとも愛人とかにさせられて昨日みたいなことを貴方達の飽きるまでさせられるとか」 「ストップストップ。波留、話がかなり飛躍してるよ」 スラスラと早口で喋り出す波留を一旦止めると男は頭を掻きながらどこから説明しようか考え、分かるよう噛み砕いて話す 「まず第一にどうこうするつもりは毛頭無い。俺達はまぁ世間ではいい顔されない人間の集まりだけど波留の今回の一件は俺の兄弟が今蹴りつけに行ってるから今後、危害を加えたり脅したりはしないよ。それは約束できる」 「な、ならどうして貴方の家に」 それに自分の身なりが綺麗になっていることが気になって仕方がない すると男が立ち上がり近くに置かれた椅子へと座るとさも当然のような声で答える 「貴方じゃなくて清ね。だってあの状態でおいては置けなかったし、処理しとかないと後でお腹痛くなるでしょ?」 あっけらかんとしたその声に波留はため息さえ出てしまう。どうにも目の前の男が掴めない 「介抱していただいたことは感謝しています。寒い思いもしなくてすみましたし」 「んー?俺は家に運んだだけだよ。後のことはさっき言った俺の兄弟が全部してくれたから礼を言うならそっちに言ってやって」 波留が戸惑いながら返事を返すと清はポケットから煙草を取り出し咥えると重厚感のある銀色のジッポライターを開き火をつけた その姿が絵になり大人の色気のようなものを感じ波留は思わず見惚れてしまう 「……?あ、煙草嫌いだった?」 数回白く細い煙を吐きながら天を仰ぐ清は呆然とこちらを見つめる波留に気がつくと消した方が良いかと気遣うように聞く 「へ?あ、いやっ、そんなことは…!」 (見惚れてましたとか言えないし、この人すっごい顔が良すぎてって俺何考えて、昨日の薬がまだ残ってるとか!?) 「ふぅーん」 見惚れていたことに慌てる波留に何かを察しニヤリと口角を上げて微笑むと煙草をもう一度口に咥え、椅子から立ち上がる その顔は子供が悪戯を思いついた時のような幼さと危うさを兼ね備えており波留は本能的に身構えた だが昨日の一件で思うように身体が動かず一気に距離を詰められると、彼の綺麗な顔が近づき煙草の匂いが先程よりも強く香り波留の脳を刺激する (か、顔が近い…!) 「波留。今どんな顔しているか分かってる?」 煙草の煙をゆっくりと吐きサイドテーブルに置かれた灰皿へと置くと清は波留の顎を持ち上げながら唇を親指でなぞった その動きに小さく反応を見せると清は面白そうに揶揄い口の中へと指を入れ歯列を触るとその先にある舌を押しつぶす 「んぅ…ちょっひょ…っぁ、はめへ…」 思うように動かせない波留は清に止めるよう言うが彼はお構いなしに口内をその長くて細い指で犯し続ける 「波留のそういうとこ俺は嫌いじゃないよ。…噛んでもいいのにされるがままにそんな顔しちゃって。俺、昨日酷いことした本人だよ?」 昨日の余韻からなのか清自身の魅力なのか波留の表情がどんどんと恍惚なものへと変わっていき、その無防備な顔に思わず清も息を呑んでしまう 「かーわいぃ…。俺本気で欲しくなっちゃうかも」 耳元で直接囁かれ、ここで止めなくてはと頭では理解していても彼に催眠術を掛けられたかのように動かなくなる (…駄目だって、言わなきゃなのに) すると口の中を弄っていた指が引き抜かれると代わりに清の唇が重なり煙草の苦い味が口へと広がっていく 驚くのも束の間、彼の舌が口内へと侵入してくるとそのまま思考と共にかき乱される 逃げる波留の舌を清が捕まえきつく吸い上げたり、歯列を何度も撫でては上顎を擽り背中がゾクゾクとむず痒くなっていく 「ぅんっ、ふぁっ…むぅ…ふんぅ、っぁ…」 波留は清の腕にしがみつき小刻みに身体を震わせ口の端から飲み込めなくなった涎をだらしなくたらし、目尻に涙を浮かべる 「波留、もっと…抵抗しなきゃ。…ダメでしょ、そんな顔しちゃ」 今自分がどんな顔をしているのだろう… そんな事を考えてると清が波留をベッドにゆっくりと押し倒した いやらしいほどの吐息と水音を漏らしながら波留は目で訴えるように清の顔を火照った瞳で見つめる 清はその瞳を数秒見つめると名残惜しそうに唇を離し、距離をあけた 離れる際に波留の舌から銀色の糸が伸び清は此処までくるともはや才能なのではと心配になってしまう 「…すっごい顔。今のは昨日の消毒ね」 「……っ」 大きく呼吸を繰り返す波留に清がそう言うとウインクをしながら得意げに言う すると清の後ろから腹に響く重低音のような声が聞こえてくる 「てめぇはもう一回はっ倒されなきゃ懲りないのか、このアホ野郎」

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