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第24話
「春樹、朝だよ。起きて」
優しい声に揺さぶられ、夢から覚める。
目を開くと拓斗がいて、にっこりと笑ってくれる。
「おはよう。朝ごはん、できてるよ」
拓斗は俺の手を引いて起こしてくれる。半分寝ぼけた俺は拓斗のなすがままだ。そのまま手を引かれ、洗面所に連れていかれる。
『なんでもしてあげたいんだ』
そう言った言葉の通り、拓斗は何もかも俺の面倒をみる。顔を洗えばタオルで顔を拭いてくれる。髪をとき、着替させてくれる。俺はぼーっと立っている。食事を作ってもらい、弁当を用意してもらい、教科書を用意してもらう。
たまには皿洗いでも手伝おうかと立ち上がると、拓斗は俺の肩に手をかけ座らせた。
「ダメ。春樹には何もさせてあげない」
「でも、お前に甘えっぱなしじゃ……」
拓斗は俺をぎゅっと抱きしめると、耳元で囁く。
「いいんだよ。僕がいないと生きていけないようになってくれたら、僕は一生君のそばにいられる」
耳にかかる拓斗の息が魔法のように俺を溶かす。それは甘く、毒を持っている。俺はその毒を喜んで飲み干す。
「春樹は僕のものだよ」
「それで、甘やかされているわけですね!! そ、そりじゃ……!!」
金子が鼻息荒く俺の腕にすがりつく。
「そ、そりじゃ、お、お、お風呂なんかも……!」
「鼻息がくすぐったいんだが」
金子は最近、科学部の新入部員、斉藤と共に桐生先生の追っかけと化していたが、今日は先生が出張していて暇だったらしい。昼休み、久しぶりに俺のクラスに顔を出した。
金子がくると、その美貌にクラスの男子がざわめく。今も遠巻きにしている奴らの視線がいたい。
「お、お風呂なんかもご一緒に……?」
「……ぁぁ。」
「ふぐぉ!!」
奇っ怪な声をあげ、金子が鼻を押さえる。どうやら鼻血を出したらしい。カバンからティッシュを出して渡してやる。
「あ、ありがとうござびばす」
金子はティッシュを丸めて鼻に栓をする。せっかくの美少女が台無しだ。
「そ、そりじゃ、体も洗われたりなんかしたり……」
「……ぁぁ。」
「ぱぴゅう!!」
金子はよくわからない奇声をあげ、勢いよく立ち上がる。俺はびくっと身をすくめる。
「ど、ど、ど、どこから? どこから?」
「なぁ、いい加減勘弁してくれないか」
金子がバン! と机を叩く。
「勘弁なりません! さあ、白状しなさい!!」
「左手からだよ」
後ろから拓斗の声がした。図書館から借りてきた本を机において、金子ににっこり笑いかける。
「金子さん、ちょっと声が大きいね」
「あう、申し訳ありません」
両手で口を押さえた金子は、ちょっと息苦しそうだ。
「それと、あんまり春樹にくっつかないでくれる?」
「も、申し訳ありません」
金子が二歩後ずさる。拓斗は俺の背中から手を回し、俺を抱きしめた。
「春樹は僕のだからね」
「ふぉ!!」
金子は喜色を浮かべ身悶える。
「ちょ、拓斗、離して」
「いやだ」
俺は恥ずかしさに、左右を見渡した。数人の女子が金子と同じような反応を示している。もしや、彼女らも金子の同類か……?
「ほら、金子さん、もう自分の教室に帰りなよ。予鈴なったよ」
「あ、は、はい。では失礼します」
あたふたと金子が教室から出ていき、やっと拓斗は俺を離してくれた。
「まったく、油断も隙もないね」
「そんなに金子を邪険にしなくても」
拓斗がジト目の横目で俺を見る。ちょっと色っぽい。
「春樹は危機管理がなってないよね」
「なんだよ、危機管理って……」
「危機を管理すること」
「いや、そういうことじゃなくて」
「正妻としては、側室が台頭するのを黙って見てられないからね」
「台頭って……」
「あ、先生来たよ」
なんだか釈然としないまま、午後の授業が始まった。
「だから、金子さんは春樹のことが好きなんだって」
「いやいやいやいや、それはない。あいつに普通の恋愛感情があるとは思えない」
拓斗が深い溜め息をつく。夕暮れも過ぎた空は藍色で、溜め息は静かに竹藪の中に吸い込まれていく。
「そういうところ、ほんとに甘いよね」
「甘いってなんだよ」
「そういうところ、好きだよ」
拓斗が真顔で言う。俺は不意打ちの言葉に真っ赤になる。拓斗は俺の両手を握って引き寄せるとキスした。
「もう。かわいいなあ」
そのまま手を引かれ、歩き出す。金子のことはなんだかうやむやになったな……。でも、まさかな。それ以上考えないことにして、拓斗の手をきゅっと握った。
「っふ……ん、ぅ」
拓斗の手のひらが俺の首筋を背中を這っていく。泡立てられたボディソープのぬるみがもどかしい。抱きしめられた状態で背を支えられ、拓斗の体に触れている俺のものが固さを増していく。
「体を洗ってるだけなのに。春樹はエッチだなあ」
「ちが……、ぁあん」
尾てい骨のあたりを優しくくすぐられる。
「なにが違うの?」
「拓斗がぁっ、えろいさわりかただからっ、んん!」
「えろいさわりかた? たとえばこんな感じ?」
腰のあたりから太股までねっとりと撫で下ろし、内腿を揉む。
「ゃあ!! あん!」
浴室の床に横たえられ、内腿をくすぐられ続ける。
「はっ……ぁ、ぁ……」
俺のものは最高潮に達し、今にも爆発しそうになっている。
「そうそう、ここも綺麗にしなくちゃね」
拓斗の指が俺の後ろに入り込み、内壁をゆっくりと擦る。
「ひぃぁっ!」
その場所をせめられ、俺は精を吐いた。拓斗が俺の腹に飛んだ白い液体を指で掬い、後ろに塗り込める。
拓斗の手が俺の手を拓斗のものまで導く。硬くなった拓斗を握りしめ、俺は思わず唾を飲み込む。
「どうしたい?」
俺は拓斗のものを撫でさすり、くりくりと先端をいじる。そこから、少しずつ液体が滲み出している。
「……拓斗は、どうしたいの」
ぐっと俺の顔に顔を近づけ、拓斗がにっこりする。
「君をめちゃくちゃにしたい」
俺の腰を抱き、一気に侵入してくる。
「あぁっ!!」
一際高い声が出る。浅く、深く、緩急をつけて拓斗は動く。俺は翻弄され続ける。
「ぁあ、あん、ふっ……ん……」
「春樹は中が一番感じるね」
拓斗が耳元で囁く。
「んっ、しらなっ……」
「ね、中が好きって言ってみて」
「やっ……」
拓斗が俺の頬を両手で優しく包み、口づける。
「ね、お願い」
そうして、にっこりと笑う。ああ、俺はこの笑顔に逆らえやしないんだ。
「なっ、なか……が」
「うん、中が?」
「中が…すき……」
「君はほんとにエッチだね」
「ちが……っ」
反論しようとした俺をキスで封じて、拓斗は動きを早めた。深く舌を絡め、抱きしめあう。強く腰を打ち付けられ、俺は達した。
「もっと気持ちよくなって」
「ゃぁっ! もうキツ……イ」
「そう? じゃ、やめようね」
するりと拓斗が出ていって体を離す。
「ぁ……」
俺は喪失感に思わず手を伸ばし、拓斗の胸に触れた。
「ん? どうしたの?」
拓斗がわざとらしく聞く。
「たくとぉ……」
「どうしたいか言ってごらん」
「……中で、出して」
拓斗は俺を抱きしめると、ぐいっと腰を持ち上げゆっくりと入ってきた。
「あ……ん」
優しい快感に甘えた声が出る。自分の声じゃないみたいで、びっくりする。
「誘うのが上手だね」
恥ずかしくて首を横に振る。
「真っ赤になってかわいい」
キスの雨を降らせながら、拓斗は俺の中にくれた。
ぐったりと力が抜けた俺の体を拭き、服を着せてくれる。抱き上げて部屋まで運んでくれる。
「……俺、赤ん坊みたいだな」
拓斗はちゅっとキスを落とす。
「マイベイビー、愛してるよ」
おどけた台詞に思わず吹き出した。
「笑ってないで、春樹も言ってよ」
「なにを?」
「僕のこと、どう思ってる?」
「……好きだよ」
「もっと言って」
「好きだ」
「もっと」
「大好きだ」
「もっと」
「……あ、」
「あ?」
「……ぁいしてる」
拓斗はにっこり笑って、俺を抱きしめた。俺は真っ赤になって拓斗の肩に顔を埋めた。
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