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第27話
「まーた、あんたたちはイチャイチャしてー」
美夜子さんがダイニングに入ってきたとき、俺は膝の上に乗った拓斗と格闘していた。
「ただいまー」
と玄関から美夜子さんの声がしたとき、俺は拓斗に抱き締められ、濃厚なキスを受けていた。拓斗曰く「食後のデザート」らしい。俺は美味しくいただかれていた。
近づいてくる美夜子さんの足音に冷や汗を流し、身をよじって拓斗の腕の中から出ようともがいたが、拓斗はガッチリと俺をホールドし離さない。
頭をふって、なんとか唇だけは離すことに成功したけれど、不満顔の拓斗は俺の頬に頬をすりよせた。
「昼間っからイチャイチャしてー。なに、お皿もさげずにイチャイチャ? どれだけ欲求不満なの」
「お、お帰りなさい、美夜子さん」
顔だけそちらに向けて言う。拓斗は顔を背ける。
「美夜子さん、帰ってくるなら電話くらいしてよ」
「まー。家主に向かってなんて口の聞き方かしら」
「美夜子さんのご飯、ないよ」
「な、なんだってー!!」
美夜子さんは両手で頬をはさみ、ムンクの叫びの真似をする。
「連絡ないんだから、準備してるわけないでしょ」
拓斗がすりすりと俺の胸元に頬をすりよせる。俺はまた逃れようと体を捻った。
「イチャイチャするな!」
「すみません!!」
「シングルだからって八つ当たりしないでよね」
美夜子さんの目にみるみる涙が浮かんでくる。
「うわあん、たかちゃあん、息子がひどいんだよーう」
泣きながら走って出ていってしまう。行き先は俺の家だ。美夜子さんは拓斗と喧嘩するたび(いじめるれるたび?)俺の家に逃げ込んでくるのが常だった。
「まったくもう。美夜子さんだって春樹のお母さんとイチャイチャするくせに」
「……うーん、あれはイチャイチャなのか?」
美夜子さんは泣きながらかあちゃんに抱きつき、かあちゃんは美夜子さんの頭を泣き止むまで撫でてやる。
それが毎度毎度の慣例だ。
「仕方ないね、働くよ」
拓斗はちゅ、と俺の頬にキスをして膝から滑り降りた。
「俺も……」
「春樹は座っててね」
にっこり笑う拓斗に、俺は逆らえない。
拓斗は手早く食後のテーブルを片付けると、美夜子さんの部屋へ行き、布団を乾燥機にかけ、玄関に放り出してある美夜子さんの鞄から洗濯物を引っ張り出し洗濯機に突っ込む。
たしかに俺が手伝うより速いけれど。俺は手持ち無沙汰で拓斗の後をついて歩く。拓斗はたびたび振り返り、俺にキスをする。
「栄養補給」
拓斗はそう言って笑うけど、俺が拓斗の栄養になっているのか、俺が拓斗の養分が欲しくてついて回っているのか今一つわからない。
洗濯機のスイッチを押し、拓斗は振り返り、俺を抱きしめた。
「もう、かわいいなあ」
そのまま押し倒されそうになったところへ美夜子さんの声がした。
「たかちゃんがいないよー!!」
邪魔をされた拓斗の眉がピクリと上がる。
「あ、ああ、そうだ!美夜子さん、かあちゃんは料理教室の日ですよー!」
玄関に向かって声をかける。美夜子さんの嘆きが聞こえる。
「うぅ、息子は非道いし、たかちゃんは仕事だし……。私、何しに帰ってきたんだろ」
「僕に洗濯させるためでしょ」
拓斗がため息をつきながら、玄関に向かう。
「それもある」
上がり框に座り込んだ美夜子さんは澄ました顔で素直に認める。
「それ以外に何があるのさ」
「ほんと、可愛いげがないったら。あんたたちの顔を見に来たの」
「見ても何もでないよ」
「ほんと、可愛いげがないったら!」
放っておいたらバトルが激化しそうだ。俺は口をはさむことに決めた。
「そ、そうだ、美夜子さん! せっかく帰ってきたんだから、何か食べたいものとかありませんか!」
「えー。美夜子さん、食べていくの?」
「拓斗はまたそういうことを……。ちゃんと美夜子さんが寝れる準備してるくせに……」
「春樹?」
拓斗がにっこり笑う。しかし目が笑っていない。俺はそっぽを向いて冷や汗を流す。
「いいもん、いいもん、私はたかちゃんのご飯、食べにいくもん」
「うん、それがいいと思うよ」
いくらなんでも半月ぶりに会った親子が、それでいいのか? 拓斗は俺の指に指を絡めようとする。俺は慌ててバンザイのポーズをとる。
「そ、そうだ! 俺も久しぶりにかあちゃんに顔見せに行こうかなあ、なんて……」
拓斗が俺の目をのぞきこむ。俺は横目で目をそらす。
「そうだね、たまには実家に顔出さなきゃね」
実家って……。じゃあ拓斗の家は俺の婚家か? なんて考えが浮かび、なにやら気恥ずかしく、そわそわする。
「じ、じゃあ、行こうか!!」
俺は美夜子さんに手を貸し、立たせる。
「僕は洗濯がすんでから行くよ」
「あ、そうか。じゃ、先に行ってる」
「あんたは来なくてよろしい!!」
美夜子さんがピシリ!! と拓斗を指差して言う。拓斗は冷ややかな目で美夜子さんを見下ろす。
「僕は孝子おばさんに会いに行くだけだから、母さんには関係ない」
「か、母さんって言わないでよね!!」
俺は二人の間に立って通せんぼする。
「ほ、ほら、美夜子さん、行きましょう。そろそろかあちゃん帰る頃ですから」
「あ、そんな時間? じゃあ春樹、一緒におうちに帰ろっか。送ってあげよう」
「そ、そうですね……」
美夜子さんに子供扱いされて背中がむず痒い。いつもは早く一人立ちするように!! と叱咤激励されるのに……。
「お手手繋いで歩きましょうねえ」
そう言って美夜子さんが俺の手を取ろうとすると、すかさず拓斗がわって入り、俺を美夜子さんから引き剥がす。
「春樹は僕と行くから」
「やだ、私と行くの!!」
二人は俺を挟んで行くの行かないのと喚き始めた。俺はなすすべなく天を仰いだ。
「美夜ちゃん?」
その声に、美夜子さんの動きが一瞬とまる。
「た、たかちゃあん!」
くるりと華麗なターンを描くと美夜子さんは、門から顔をのぞかせているかあちゃんに抱きつく。
「会いたかったよぉ、たかちゃあん」
「あらあら、よしよし。お帰りなさい」
かあちゃんが美夜子さんの頭を撫でる。
「たかちゃん、向こうで一緒に暮らそう!!」
美夜子さんがかあちゃんの手を握りしめる。
「うーん、仕事があるしなあ」
「……とうちゃんのことはいいのか?」
かあちゃんと美夜子さんは行くの行かないのと賑やかだ。結局、一緒に牟田家に行くことで決着がついた。
「じゃあね、春くん。拓斗くんに迷惑かけちゃだめよ」
「大丈夫ですよ、おばさん。春樹はいい子ですから」
「いい子って……」
「そうそう、うちの息子とは大違い」
「蛙の子は蛙だからね」
なんだかんだ言いながら二人は出ていき、俺はなんとなく実家に帰るきっかけをなくし、拓斗は俺を抱きしめた。
「拓斗?」
「僕が春樹を好きなのって、遺伝子のせいなのかも」
「なんだそりゃ」
「美夜子さんが孝子おばさんを大好きな気持ちが僕に遺伝して、だから僕は生まれた時から君を好きなのかも」
俺はふ、と笑う。
「じゃあ、うちのかあちゃんも、そうとう美夜子さんが好きなんだな」
拓斗は俺の目をじっと見つめると、額をこつんとくっつけた。
俺はなんとなく拓斗の唇に指で触れてみる。ふっくらと暖かい感触を味わいたくて、唇をつけた。
拓斗の手が俺の背をすべり、服の下にもぐりこむ。
「ちょっ……! ここ、玄関!」
拓斗は手を伸ばし玄関の鍵をかける。
その間ももう片方の手は俺の体をまさぐり、優しくくすぐる。
「んっ、拓斗、ダメだってばぁ」
拓斗を押し退けようとするけれど、やっぱり俺の力じゃびくともしない。拓斗は聞いていないふりで俺の服を肌けていく。あらわになった胸のものをぺろりとなめられ、ぞくりと電気が腰に走る。拓斗の手の動きで一気に高まってしまう。もう条件反射になっているみたいだ。
その反射で俺は、拓斗に抱きつき、キスをせがむ。
「ん……っ」
キスを落としながら、拓斗の手が俺の尻を揉む。ジーンズの中で膨らんだものが擦れてにぶい快感が生まれる。
俺はそれを拓斗の腰に擦り付けて更なる快感を得ようとした。拓斗はそんな俺の動きを止めると、ジーンズを下ろして俺のものを口に含んだ。
「あっん、やぁっ……」
同時に手を回し、俺の後ろを広げる。いつもは隠されているものが、ひやりとした玄関の空気に触れて俺はぴくりと震える。拓斗の片手が下へくだり、腿にそっと触れる。
「っう、ん!!」
敏感な皮膚への刺激で達してしまう。拓斗はこくりこくりと俺を飲み干すと、玄関の扉に俺の両手をつかせ、腰を突きださせた。拓斗のものが、俺の後ろを突っつく。
「ん、拓斗ぉ」
俺は軽く腰をふる。
「なに、どうしたの?」
見なくてもわかる。拓斗はにやにやと悪い笑みを浮かべているんだ。俺を誘って。
「はやく……」
「はやく、なに?」
俺は腰を拓斗に擦り付けて誘う。
「はやく、来て、俺のなかに……」
ゆっくりと拓斗が入ってきた。俺の中が拓斗の形に変わっていく。
「はぁ……ん」
深いため息が漏れる。最奥まで到達すると、拓斗は俺の背を抱き、前に回した手で俺のものをしごいた。
「ゃ、だめ……」
「なんで、だめ?」
「……っちゃう」
「うん? なんて?」
「俺だけいっちゃうからぁ」
拓斗は俺のうなじに唇を落とす。
「かわいい、春樹。じゃあ、いっしょにいこ?」
俺は、がくがくと首をふる。もうすでに達しそうになっている。
拓斗はそれを知っているのに、焦らすようにゆっくりゆっくり抜き差しする。
「あ、あぁん、や……だ」
拓斗を追い上げたくて、腰をふる。拓斗は余裕でそれを受け止めて、さらに俺を追い上げる。
「はぁ、ん。んぅん、あっ」
くちゅくちゅという水音が後ろから聞こえる。
拓斗のものの先から滑りが滴っている。
「あっ、あ!!」
ずん、と強く深く突かれ、俺は達してしまった。
「ゃだ、たくと」
拓斗は俺の中からずるりと抜け出すと、俺を廊下に横たえ、両足を抱えあげた。
そしてまた拓斗の先で、俺の後ろをつついてくる。
「拓斗ぉ」
拓斗はにやにやと笑う。天使のような拓斗の悪魔のような笑み。俺だけが知っている、俺だけしか知らない。もっと拓斗の秘密を知りたい。もっと拓斗を俺のものにしたい。
一気に拓斗が入ってきて、力強く動き出す。
「ひゃぁ、あん!」
すぐに俺は勢いを取り戻す。
ぐちゅぐちゅと音をたてる俺は拓斗を締め付け、出ていくことをゆるさない。拓斗はこきざみに動き、ますます大きく膨れ上がる。
俺は先端からポタリポタリと雫をたらし、拓斗はそれを指で掬うとぺろりと舐めた。
「春樹」
「っん、ぅん?」
「君はおいしいよ」
拓斗が俺の首に噛みつく。
俺は達し、拓斗を締め付け、拓斗もいった。
ぴー、と甲高い音を洗濯機が発した。拓斗は俺にキスをして、手を引っ張り立たせてくれる。
「次はこの服を洗わなきゃね」
拓斗が俺にバンザイさせ、飛沫がついたシャツを脱がせる。そのついで、というように俺の胸にキスを落とす。
「んっ……」
キスだけではなく舌も加わり、とうとう手も参加してきた。
「ちょ、ちょっと、拓斗!!」
「ん……なに」
俺の胸を舐めながら拓斗が答える。
「ゃあっ! あん! だめだって、洗濯物、しわに……んん!」
「いいよ、しわくらい」
「やっ! 美夜子さんが帰ってきちゃうからぁ!!」
拓斗は手を伸ばすと、チェーン錠までかけてしまった。
「これで入れない」
「や、だめだって!!」
その時、タイミングよく玄関のベルが鳴った。
『おーい、拓斗、春樹、開けて〜。鍵わすれた〜』
「ほら、美夜子さん帰ってきちゃった……って、あん!」
拓斗の手を引き剥がそうともがく。
「いいよ、放っておこう」
「放ってって……、やぁ! ダメだってば!」
「声、美夜子さんに聞こえるよ」
「!!」
両手で口をおおった俺を拓斗が横抱きにして、拓斗の部屋に向かう。
『あーけーてー!!』
美夜子さんの悲壮な声は、拓斗の部屋の扉によって遮られた。
翌朝、ぐったりした腰の重みを引きずりながらダイニングに向かうと、拓斗と美夜子さんが対峙していた。
やばい、昨日のことで親子喧嘩か!?
と思ったが、意に反して美夜子さんは上機嫌だった。
「ゆうべは久しぶりにたかちゃんと一緒に寝ちゃったぁ。楽しかったあ。やっぱりたかちゃんかわいい!」
「うん、うん。良かったね。春樹、おはよう」
拓斗は俺の手をとると、ちゅ、とキスをした。
「!!!!!!」
その手を振りほどき美夜子さんの方を見ると、ぽやーっとして、俺たちのことなんか目に入っていないようだった。
ほっと胸を撫で下ろした俺を、拓斗が不満げに睨む。
「や、あの、だって……」
「わかった」
拓斗は俺に背を向ける。俺は慌てて謝ろうとしたが
「美夜子さん、今すぐ帰って」
「なによぉ、急に。まだ朝なんですけどお」
「美夜子さんがいると、春樹がイチャイチャさせてくれないから」
「ちょ、拓斗!?」
「あら、気にしなくていいわよ、私のことは。私は気にしないから」
「美夜子さんが気にしなくても春樹が気にする。美夜子さんと違って繊細だからね」
「ちょっと! だれが傍若無人なおばさんですって!?」
「み、美夜子さん、誰もそんなこと言ってな……」
「自分で認めたね」
「た、拓斗!!」
猛り狂う美夜子さんを静めるすべを俺は持たず、拓斗は美夜子さんをさらに煽り。俺は朝っぱらから実家に泣きつくという、いかにも嫁らしい行動に出たのだった。
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