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第29話

「あっつー……」 風呂上がりがたまらなく暑い季節になった。とーちゃんならビールをぐいーっといくところだが、未成年の俺がやるわけにはいかない。 かわりにコーラをぐいーっといこうと冷蔵庫を開けたが。 「ない!!」 「なにが?」 晩飯の仕度をしながら、拓斗が振り返る。 「コーラがないー」 泣きそうになりながら俺は言う。 「あー。買い忘れてた。ごめん」 「……いや、いいんだ……麦茶で……」 拓斗が火を止める。 「自販機行ってくるよ」 「いや、いや、いや!! いいよ、そんなわざわざ」 「わざわざでもないよ。そこの角までじゃない」 「いや、自分で行くから」 「春樹は座ってて」  俺はかるくため息をつく。 「なあ、それ、やめないか?」 拓斗はきょとんと首をかしげる。 「それって?」 「俺には何もさせない、っていうの」 拓斗は首をかしげたまま、悲しそうに眉根を寄せる。 「迷惑だった?」 「いや、迷惑じゃないよ!! ただ、申し訳なくて……」 「僕がしたいんだから、申し訳ないことなんか何もないよ」 「でもなあ……」 俺は腕を組む。でもなあなんて言いながら、その後に言葉が続かない。 「じゃあ、行ってくるね」 「俺も行く!!」 一瞬、目を丸くした拓斗が、くすくすと笑う。 「じゃあ、一緒に行こう」 玄関に鍵をかけ二人ならんで、ちょいとそこまで。夜も更けて月が中天に上っている。 「拓斗、最近、野球部にばっかりいるけど、天文部はどうしてるんだ?」 「ちゃんと活動してるよ」 「いつ?」 「寝る前とか」 「……家でやるのは部活とは違わないか」 「どこでやっても星の大きさが変わるわけじゃないからね」 俺は足を止めた。 「なあ、拓斗は拓斗のしたいことをしろよ」 「なに? したいことって?」 「天文部とかさ、朝寝坊とかさ、……ぼーっとするとか?」 拓斗は俺のほっぺたを引っ張る。 「僕のしたいこと、ほんとにしていいの?」 「もちろん」 両ほほをひんやりとする手で撫でられる。 拓斗はするっと身を離すと自動販売機へ走っていってコーラを二本買う。戻ってきて、俺にコーラを手渡す。冷たい缶は汗をかいている。 「じゃ、帰ったら、僕のしたいこと、つきあってね」 俺はうなずいて、二人、手を繋いで帰った。 「……拓斗、これはちょっと勘弁してもらえないか」 「僕のしたいこと、していいって言ったじゃない」 「けど、これは……」 拓斗は俺の膝にすわり、俺の口に鮭の西京焼を運ぶ。 飯もサラダも優しく口元に運ばれ、味噌汁はスプーンですくって、まるで赤ん坊みたいに食べさせてもらっていた。 「これは……なんか違わないか」 「違わなくないよお。僕のしたいこと、その一だよ」 「その一?」 「そ。まだまだしたいことあるから、付き合ってよね」 にこおっと拓斗が笑う。……はい。俺はその笑顔に逆らえませんとも。 「た、拓斗、これはちょっと勘弁して」 「僕のしたいこと、していいっていったじゃない?」 「けど、これは……」 「僕が一番したいこと」 俺は後ろ手に縛られてベッドに腰かけていた。 拓斗が俺の耳に口を寄せてささやく。 「君を捕まえて誰にも見せたくない」 「拓斗……」  拓斗が俺をぎゅっと抱き締める。 「この部屋に閉じ込めて、僕だけのものにしたい」  拓斗の両手が俺の頬を包む。上向かせ、キスを落とす。 「好きだ」  拓斗の声が降ってきて、俺は身震いする。それだけで果ててしまいそうだ。 「好きだ」  拓斗は片手を俺の背にかけ、ゆっくりと俺をベッドに横たわらせる。縛られた手が邪魔で背がしなる。拓斗はそれに気づいているだろう。けれど俺は仰向けに転がされたまま。  俺の腕は俺の体でより一層自由を奪われる。  拓斗の手が、俺のシャツにかかり、ゆっくりとボタンをはずしていく。あらわになっていく肌に、そのたび唇を寄せて、キスをしたり、舐めたり、そのたび俺はびくりと震える。なぜだかいつもより快感が強い。  袖を抜けないシャツは肩口で丸められ、それも俺を縛る紐になる。  拓斗の唇は俺の肌の上を優しく撫でていく。手でされるよりずっと柔らかな感触に下半身にむず痒さに似た震えが走る。  その震えを追うように、拓斗の手は下半身に向かう。  下着までを取り去ると、また唇を落とし柔らかに触れていく。  唇が、内腿に触れた。 「ん……」  ぴくん、と足が跳ねる。 「ここが好きなの?」 「ん……、気持ちい」  拓斗の舌がぺろりと舐めあげる。またぴくん、と跳ねる。拓斗は指先でそっと肌を擦る。そのもどかしい快感は少しずつ俺を押し上げる。 「!?」  急にぐいっと足を持ち上げられ、後ろに拓斗の指が差し込まれた。 「あっ……、はぁっ」  突然の強い刺激に、背は一層しなる。 「ゃっ……だめ……」 「だめ?」 「ん……まだ、して」  俺の哀願を拓斗は嬉しそうに笑って聞いてくれる。  拓斗は俺の体を反転させると、縛られた俺の腕をそっと撫でる。なぜだかそれが気持ちよくて、俺の体はびくびくと震えた。 「気持ちいいんだね」 「うんっ……いいっ。あぁっ」  拓斗の唇が優しく俺の指を含み、一本ずつ舐め、甘噛みしていく。 「ふっぅ……」  唇は腕に肩に移り、俺のうなじに落ちた。 「はぁ、ん! あぁっ」  俺の弱いところをぺろりぺろりと何度も舌を往復させる。 「やぁっ! あん!」 「ああ春樹、そんなにかわいい声をあげないで。我慢できなくなる」 「そっ……んな、ことっ……たってぇ」  拓斗は俺の腰を立たせる。腕を戒められた俺は肩でバランスをとるしかない。ぐらぐらと安定しない俺の体を、拓斗の両手が支えてくれる。  拓斗が、ゆっくりゆっくりと入ってきた。 「ぁっ、あぁ……」  俺の中が拓斗の形に変わっていく。いや、もう俺はすっかり変わってしまっているのかもしれない。拓斗はしっくりと俺の一部のように馴染み、それでいて、俺の体を翻弄する。  拓斗はゆっくりと前後に腰を揺らす。 「はぁ、あ……ん……」  ゆっくりゆっくりと俺は追いあげられていく。  と、突然、拓斗が深く俺を突き上げた。 「あぁっ!」  俺の良いところを擦り奥まで突き抜け、また戻ってきて、その場所を擦る。 「はぁっ! あうっ、あぁっ!」  俺はただ翻弄されることしかできない。  拓斗は荒い息で俺の名を呼ぶ。 「春樹、春樹!」 「ふ……ん、あ、ぁん!」  俺は返事もできず、がくがくと揺すぶられる。拓斗が俺の腕をつかみ、ぐいっと引く。俺は膝立ちの格好で尻を突きだし深く抉られる。拓斗の手が前に回され俺を扱きあげる。 「やぁっ……あぁっ!」  俺はすぐに爆発する。拓斗は滑る液体を掬いとり、出したばかりの俺自身に擦り付ける。 「やっ、拓斗、くるし……」 「苦しい? やめてほしい?」  俺ががくがくと首をたてに降ると、拓斗はするりと体を離した。俺はベッドに横たえられる。突然の喪失感に、呆然となる。 「拓斗……」 「うん? どうしたの?」  俺の目から涙が溢れ出す。 「なんで泣くの」 「拓斗、拓斗……さびしい……」  拓斗は俺をぎゅっと抱き締めてくれる。けど、違うんだ、そうじゃない。俺は拓斗の首筋に舌を這わせる。耳朶を口に含み、転がす。拓斗の息が上がっていく。 「春樹……」  拓斗が唾を飲み込む。喉仏が上下に動く。俺はそれも舐め、甘噛みする。 「春樹!」  拓斗は低く叫ぶように俺を呼び、俺の両足を抱えあげ、一気に浸入してきた。 「っあぁ!!」  歓喜が背骨を駆け上り脳天を貫く。拓斗はゆさゆさと俺を揺らす。 「あっ、あっ、あっ!」  揺すられるたび、声が漏れる。背中に回った腕がシーツに皺を作る。腕はしびれて感覚が麻痺してきている。拓斗は俺の片足を高くあげ、より深く抉る。 「はぁっ! あうっ」  拓斗がどくどくと放つ。その感触に俺も一緒に放出する。拓斗はそのまま止まらず動き続ける。俺の良いところを擦り、浅く深く抜き差しし、すぐに二度目の精を吐いた。 「あ、はぁん」  拓斗がずるりと出ていった感触に、甘えたような声が出る。後ろからとろりと液体がこぼれ出す。そのわずかな刺激だけで、俺はパンパンにふくらみ、拓斗を欲した。 「春樹……」  拓斗は後ろに手を這わすと、つぷりと指を差し入れた。 「んっ! う……」  指でそこを刺激される。 「あっ! はあっ! いいっ!」 「春樹」  拓斗が俺を呼び、口づける。 「んっ……」  その間も指は俺の中を攻め続け、俺の腰は独りでにぐいぐいと動き、俺自身を拓斗に擦り付ける。 「んあぁ!」  拓斗が俺と拓斗を一緒に握りこむ。後ろには指が差し込まれたままだ。 「やっ、あっ、だめぇ、おかしくなる……」 「なって、春樹。もっと感じて」  パンパンに腫れた俺は無理に擦られ痛いほどなのに、後ろへの刺激で痛みが快感に変わる。それが怖くて拓斗にしがみつきたいのに、腕は縛られ、動けない。 「たくとぉ、たくと」  拓斗は返事もくれない。ただ俺を刺激し続ける。俺は怖れと激しすぎる快感に、意識を手放した。  気づくと俺は一人、ベッドにいた。見渡してみても拓斗はいない。 「たくと……」  腕は縛られたままで、俺のものも俺の後ろもどろどろだった。 「たくと……」  俺は置いていかれた子供みたいに、ほろほろと涙を流す。 「たくとぉ」  ああ、俺はもうだめになってしまっていたんだ。  拓斗がいないと生きられない体に。拓斗の赦しがないと動くことさえできない体に。  ドアが開き、拓斗が入ってきた。俺の涙はいよいよ滔々と溢れる。 「たくとぉ」 「どうしたの」  拓斗は手にしていた暖かいタオルで俺の体を拭いてくれる。 「いっちゃいやだ」 「ん?」 「どこにもいかないで」  拓斗はじっと俺の目を見つめると、俺の手を戒めていた紐をほどく。俺は拓斗にすがりつく。 「たくと、たくと」 「うん」  拓斗が抱き締めてくれる。 「ずっとここにいて」 「うん、いるよ。春樹のそばに」 「ずっと、ずっと」  俺は拓斗に抱かれ続けた。

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