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第47話
「ねえ、春樹。三年の鍛練遠足、星ヶ岳に登るんだって! 楽しみだねえ」
「へえ。本格登山なのか」
「七合目までらしいけどね」
茅島町立茅島高等学校では、春に「鍛練遠足」と銘打ってアホらしいほど肉体を酷使する遠足が行われる。
昨年の俺たち二年生の鍛練遠足は、フルマラソン遠足だった。42、195キロを早足で歩いた。
平地を歩くのが苦手な拓斗の手を引いてやって、なんとか時間内にゴールできた。間に合わなかった生徒は帰りのバスでポチポチと拾っていく。なかなかオリジナリティー溢れていた。
「次は僕が手を引いてあげるからね」
「ああ、たのむ……、あれ?」
「どうしたの?」
首をかしげた俺を見て、拓斗も首をかしげる。髪がふわりと揺れて可愛らしい……いや、そんなことは置いておいて。
「来年はクラス違うじゃないか」
「え? なんで? 春樹は理系だよね」
「そうだけど。お前は特進だろ」
うちの学校は三年になると進路によってクラスが別れる。就職組、文系組、理系組、そして特進クラス。
学年で成績上位者を集めた特進クラスは、毎年、国公立大学へ多くの学生を送り出している。拓斗はつねに学年十位内をキープしているのだ。文句なしで特進だ。
「僕も理系だよ」
「は? なんで?」
「進路指導の時に理系に行きますって言ったからね」
「特進なら理系も文系もオールマイティに勉強できるだろ」
拓斗は首をかしげた。
「春樹は特進に行きたい?」
「まさか! 俺なんか無理に決まってる!」
「やっぱり理系だよね。僕もだよ」
にこにこ笑う拓斗。俺は腕組みして首を捻る。
「なんか話が噛み合わないんだが」
「そう?」
「もしかして拓斗は、俺が理系に行くから、自分も理系にした、って言ってないか?」
「うん。そうだけど?」
俺は拓斗の両腕をがっしりとホールドした。
「お前! 進路なんか人生の大事な岐路だぞ! 慎重に選べよ!」
「選んだよ?」
ほにゃ、と笑う拓斗に流されそうになったが、ギリギリで踏みとどまった。
「特進に行けるのに、わざわざレベル低いクラスを選ぶなよ!」
拓斗は腕組みして首をかしげる。
「レベルは関係ないよ? 君が行くから、僕も行くんだよ」
俺はため息をついて頭を抱えた。
「拓斗、ちょっと進路について話し合おうか」
俺たちはこたつに差し向かいで座った。
「で? 拓斗は大学はどこにするんだ?」
「そうだねえ。どこだろうねえ」
「まさか決めてないわけじゃないよな」
「そんなこと言って、春樹こそ決めてるの?」
「俺は……、いや、俺のことはいいんだ。拓斗のことを聞かせてくれ」
「春樹とおんなじところ」
「だから、そうじゃなくて……。それじゃ、就職は? どんな仕事につきたいんだ?」
拓斗は小首をかしげてふわりと微笑む。
「専業主夫」
「せ、専業主夫?」
「うん。朝から晩まで君のことだけを考えて、君のためだけに生きていきたい」
拓斗はまっすぐに俺を見つめる。俺はその瞳の強さにほだされそうになり、けれどギリギリで踏みとどまった。
「そ、そんなこと言って、拓斗にだって夢とかあるだろ」
「夢?」
「天文学者になるとか……」
「天文なら在宅でできるよ。ついでに仕事も在宅でできるよ。ホームページ作成とかプログラミングとかね」
俺は返す言葉を失ってぐう、と唸った。
「じゃあ、次。春樹の番ね。夢はなんですか?」
「……夢か。なんだろな」
拓斗はため息をついて小さく首をふる。
「もうすぐ三年になるのに、悠長だよね。とりあえず理系は確定として、大学はどうするの?」
「どうしようか」
「もう。春樹は人のこと心配してる暇ないよね」
俺は面目なくて下を向く。
「じゃあ、やりたいことは?」
「野球は続けたいかな」
「いいね。大学野球」
「そんなしっかりしたところじゃなくていいんだ。草野球くらいで」
拓斗は手を伸ばして俺の頭を撫でてくれた。
「やりたいこと、しっかり決まってて偉いね」
「お前ほどしっかりしてないけどな」
「僕、ほんとは行きたい大学があるんだよね」
「え、どこ?」
「枝府大学の物理学科。あそこ、いい望遠鏡があるんだ」
「枝府大か。県外だな……。……。……。」
拓斗と離れ離れになってしまう、と思うと涙がこぼれそうになって、俺は天井を見つめて歯を食いしばった。
「もちろん、春樹も行くんだよ」
「え?」
「枝府大学の野球部はけっこう強いんだって」
「いや、いや、いや、俺の頭で枝府大は無理だって」
拓斗はがっくりと肩を落としてうなだれる。
「あーあ。じゃあ、諦めるしかないね」
「なんだよ、拓斗一人でいけばいいだろ」
「僕と離れたら泣くくせに」
う、と言葉につまる。
「それに僕は春樹がいないところに行くつもりないから」
「そんな、それじゃせっかくの夢が……」
「だから」
拓斗が俺の両手を握ってにっこり笑う。
「春樹も枝府大学にいこう」
有無を言わさぬ満面の笑みだった。
拓斗は俺のための受験勉強スケジュールを用意していた。二月からの一年計画で俺の学力を大幅アップさせるらしい。夏の大会までは一、二年の復習。秋からは本腰を入れて集中特訓するようだ。
「受験問題の八割は一、二年の基礎問題だから、きちんと復習すれば受かるんだよ」
とのことだが、一年の時のことなど記憶の彼方、二年の範囲も忘却の霧の向こうだ。復習というか、一から覚え直す感じになる気がする。
「僕が教えるから安心して」
安心できるわけがない。拓斗はスパルタだ。
俺は高校受験の時も拓斗の満面の笑みのために、志望校のレベルを二つも上げた。その時も拓斗が俺を鞭打って俺はひいひい言って勉強した。一生であんなに勉強することはもうないだろうと思っていたのに……。
「ほらほら、目を開けて」
拓斗に鼻をつままれる。いつの間にかうとうとしていたらしい。しかしそれも仕方ないだろう。連日の野球の練習の後にみっちり勉強しているのだ。俺の睡眠時間は通常より二時間減った。
しかし、拓斗は家事をする分、俺より睡眠時間が短いのだ。文句を言ったらバチが当たる。
「やっぱり古文が苦手だねえ」
一年の時のテストをやり直させられたが、一度解いたとは思えないくらいわからなかった。
「かかり結びがまったくできてないんだね。ね、百人一首しようか」
「え、今から?」
「うん。一時間もかからないでしょ。負けたら勝った方の言うこときく。でいいよね」
勝負を目の前に、俺のやる気は急上昇した。
「……拓斗さん、手加減なしですか」
「当たり前でしょ。じゃあ、なにをしてもらおうかなあ、ふふふ」
百人一首の勝敗は火を見るより明らかだった。俺が和歌で拓斗に勝てるわけがない。俺がとれた札はわずかに三枚。けれど勝負と言われたら引き下がれないのが俺の性質だ。
「そうだなあ、明日も百人一首して、二回分一度に聞いてもらおうかなあ」
「あ、明日は負けないぞ!」
「はい、はい」
そうして俺たちは毎晩、百人一首で対決して、俺が拓斗と互角に札を取れるようになるまでに二週間かかった。
「じゃ、今日は一年最後の古文のテストをやってみようか」
「百人一首はやらないのか?」
「うん。もう大丈夫だと思うよ」
「?」
言われた通りの問題を解いていく。なぜか難解だったはずの今昔物語や枕草子がすらすらと読める。意味もだいたい見当がつく。テストを終え、採点すると八十点を越えていた。
「奇跡……!」
「やだな、春樹が百人一首がんばったからでしょ」
「だってカルタで勝負してただけじゃないか」
「勝つために和歌をいくつも暗記したでしょ。あれだけ読み込んだから慣れたんだよ」
俺は拓斗に抱きついた。
「先生! ついていきます!」
拓斗はにこにこと俺の頭を撫でた。
拓斗の独創的な授業方で、一ヶ月もすると俺の学力はぐんと上がった。
「今日は勉強はお休みにしようね」
手を繋いで帰る道すがら拓斗が唐突に言った。
「え? なんで?」
「たまには休まないとね。それと今日はクッキー焼いてあげるからね」
「あ! ホワイトデー!」
連日の勉強で日付の感覚がなくなっていて忘れていた。もう三月十四日だ。
「俺、なにも準備してない……」
「なにもいらないよ? バレンタインにもらったのは僕の方だし」
「いや、あのチョコペンはプレゼントとかじゃないし……」
拓斗は俺の手にキスをする。
「あの日の春樹、美味しかったなあ。また食べたいな」
俺の背中にぞくりとしたものが走る。
「早く帰ろうか」
拓斗が俺の腰に腕を回し力強く歩き出す。俺はされるがままついて歩いた。
家に帰ると拓斗は冷凍庫から取り出したクッキー生地をオーブンに突っ込んだ。
「準備してたのか?」
「うん。すぐに焼けるよ」
そう言いながら、拓斗は俺の制服を脱がせていく。
「あの……ここ、台所なんだけど」
拓斗は無言で俺の唇に噛みつく。むりやり口を開かせ舌を挿し入れる。両手で強く俺の腰を抱く。
「んっ……んふ」
拓斗の舌は荒々しく俺の口中を蹂躙する。それだけで俺はぱんぱんに高まる。この一ヶ月、勉強漬けで拓斗におあずけを食らわされていた欲求が爆発しそうだった。
「テーブルに手をついて」
拓斗が耳元で低くささやく。俺は促されるままに姿勢をかえる。俺の服を剥ぎ取ると拓斗がいきなり侵入してきた。
「あっ、拓斗、きっ、つい……」
「ごめん、我慢できない」
拓斗はすぐにゆさゆさと俺を揺すりあげ始めた。
「ひゃ、あん! あぁ!」
片手で俺を抱きしめ片手で俺のものを扱きあげる。
「や! だめ! 拓斗、でちゃう……」
俺が吐き出したものを拓斗は余さず掬いとり、口に運び舐めとる。その間も腰を打ち付け続け、俺はまたすぐに立ち上がる。
「濃くておいしい。春樹、我慢してたの?」
俺は恥ずかしくて下を向く。
「……ゃ! しらない! っあぁん!」
「正直に言わないとお仕置きだよ」
拓斗が俺のものの根本をきゅっと握る。俺のものがびくりと跳ねる。そのまま拓斗は強く俺を抉る。浅く深く強弱をつけて俺を追い上げる。
「や、ぃや、たくと、手はなして……」
「ちゃんと言えたら離してあげるよ」
ずん、と深く突かれ顎が上がる。
「ひぁぁ!」
今にも爆発しそうに膨れ上がっているのに、拓斗に塞き止められ。
「したかったぁ、たくとのが、ほしかったぁ」
「よくできました」
拓斗が手を離し、一際強くねじ込む。
「ああぁ!」
俺は二度目の精を吐く。きゅうっと後ろが締まり拓斗も俺の中に吐き出した。
オーブンがチンと鳴り、台所中に甘い香りが漂う。拓斗が俺から体を離す。
「クッキー、しばらく冷ますから、その間に……」
俺は拓斗の背中に抱きつく。
「春樹?」
「たくと、もっとして」
拓斗はくるりと振り返ると俺を抱きしめ唇を合わせる。
「もう、どうしてこんなに可愛いんだろう。本当に食べてしまいたい」
「ん、食べて……」
拓斗は俺の口を塞いだまま、俺のものと拓斗のものを一緒に握ってやわやわと揉みだした。
「ん……んふ」
もどかしくて身をよじる。
「春樹、お願いがあるんだ」
「ん……なに?」
俺はとろんとした目で拓斗を見上げる。拓斗は俺の額にキスを落とすと、俺を抱き上げた。
「や! 拓斗、やだ……」
「だめ。百人一首の敗けを払ってもらうからね」
拓斗は俺の両手をひとまとめに縛ってしまった。ベッドの上であばれる俺を組み敷き、俺の足にも手を伸ばす。
「や……!」
「なんでも言うこときく約束だよ」
俺はぐっと押し黙ると、体の力を抜いた。拓斗は俺の足に鎖を巻きつけるとベッドの足に繋いでしまった。俺は大きく足を開いた格好でベッドの上に縛り付けられた。体の中心で、それが勢いよく立ち上がっているのが丸見えで、俺は顔を反らした。
拓斗が首筋に唇を寄せ、ふうっと息を吹き掛ける。
「はぅ……」
そのまま首を下から上に舐めあげる。
「ぁあ、ん」
縛られた両手を拓斗の首にかけ身をよじる。拓斗は俺のうなじに、耳に、頬にキスを落とし、俺の腕の中からするりと逃げていった。
拓斗の唇が胸の中心から臍までくすぐり、両手が俺の胸を這う。
「ん……、ぅん」
やわらかな刺激にもどかしさが募る。拓斗の唇は俺の脇腹に移る。ぴくり、と体が跳ねる。舐めあげられ、ぞくぞくと鳥肌がたつ。
「ぃや、そこだめ……」
拓斗は俺の脇腹から顔を離さず、片手で俺の胸のものを摘まんだ。
「あ! ぁあん!」
待っていた刺激に軽く達する。拓斗は俺から滲み出た液体を掬いとる。
「ひゃあ!」
軽く触れられただけでびくりと腰が跳ねる。拓斗は粘性の液体を胸のものに擦り付けると、指先でころころと転がした。
「やあぁ! あっあ、あぁ……」
絶え間なく声が上がる。拓斗は脇腹を責め続けながら俺の耳に手を伸ばし、そっと撫でる。
「あっ、だめ、みみ……」
弱いところを弄られて、逃げたくて身をよじる。けれど捕らえられた足が動きを邪魔する。
「たくとぉ、も、つらい……」
懇願しても拓斗は責めを緩めてくれない。弱いところばかりを狙って俺を啼かせ続ける。
「たくと、たくとぉ……あ、やぁん!」
拓斗の唇が太股に落ちる。肌の柔らかな部分に歯をたてる。
「あ、あぁ、もう、もう……」
片方の股をやわやわと揉みながら、もう片方を舐めあげる。時おり歯をたて、時おり吸い上げる。
「たくとぉ、ちょうだい、たくとの、ちょうだい……」
拓斗は俺の言葉が聞こえなかったように太股に触れ続ける。俺のものからはたらたらと滴がこぼれ続けた。
どれくらい、そうしていたのだろう。
俺は喘ぎすぎて声も枯れ、身体中至るところに拓斗がつけた赤い痕が花のように散り、俺のものは高く立ち上がっているのに、なにも湧き出さない。もう気持ち良いのか痛いのかもわからず、ぐったりと身を横たえていた。
「春樹」
拓斗が耳元で囁きながら、俺の頬を撫でる。敏感になりすぎた肌が悲鳴をあげるようにひくりと引きつる。
「た、くとぉ……」
拓斗は優しく俺に口づけると腕の戒めを解いた。足元に身を移し、足の鎖も外していく。
ベッドに肘をついて上体を起こす。そこに拓斗がいて、俺が欲しかったものがある。ごくりと唾を飲み込む。
「春樹」
その声に導かれるように拓斗のそこに口を近づける。ぺろりと舐めると甘かった。俺は夢中で拓斗のものを舐めあげた。じゅるじゅるとすすり上げ、口に頬張った。頭を上下させ拓斗の中から欲しかった液体を絞り出す。こくりこくりと飲み下す。
まだだ。
まだ全然足りない。
俺の中に、拓斗が足りない。
俺は起き上がると拓斗に抱きつき、拓斗のものの上に腰を沈めていく。
「ん、ああぁ……」
半分ほど入ったところで一気に腰を沈める。
「あん、あああ!」
無心に腰を振る。拓斗にしがみつき胸を押し当てるようにしながら、腰を振る。
「はあぁ! ん、ああ! うあ……」
暴力的な快感が全身を駆け巡る。拓斗が時間をかけて俺に刻み付けた印が爆発する。俺は動きを止めることができない。
「春樹、春樹……」
うわ言のように呟きながら、拓斗が俺の中に放った。まだだ。まだだ。俺は拓斗の肩に噛みつく。
「っ……!」
噛み跡から滲む血を舐めながら腰をふり続ける。
気持ちいい。
気持ちいい。
気持ちいい。
頭がおかしくなりそうだ。
拓斗が俺を抱きしめ下から突き上げる。
「ひゃあん!」
達してしまったのに、俺のものからは何も出てこなくて、気持ちいいのが馬鹿みたいに続く。拓斗は俺の背をベッドに横たえると、俺に覆い被さり激しく動き出した。
「はぁっ! うう、んく! あああぁ……」
何度も何度も達して、頭のなかは真っ白だった。このままいつまでも擦りあい続けていたかった。
拓斗は俺の中で放ち、けれどまだ立ち上がったままで俺の中で蠢き続けた。
「んあ! あっあぁん、ふ、あ!」
俺の体を抱きしめ、いつまでも貫き続けた。
何度、達しただろう?
俺たちは荒い息を吐きながら、ベッドに埋もれた。俺のそこはひりひりとした痛みを伝えてくる。けれどそれさえも気持ちよくて。
俺は拓斗の唇を舐める。甘くてとろけそうで、口を離せない。拓斗も舌を伸ばし、俺の唇を舐める。舌を絡ませ、吸いあう。たったそれだけでまた達した。
そのまま、気が遠くなるまで俺たちはキスを続けた。
翌朝、俺は軽くなった体で洋々と起き上がった。まだ眠っている拓斗をキスで起こす。
「あっ、ん!」
自分でしたキスなのに、自分が気持ちよくなって喘ぐ。
「エッチな春樹。まだしたいの?」
目を開けた拓斗がくすくすと笑う。
「や! ちが……、あん!」
否定しようとした俺の首筋を拓斗が撫で上げた。その手が俺の下へと向かうのを、ベッドから飛び起きて防ぐ。
「も、もう起きないと遅刻だぞ!」
「まだ大丈夫だよ」
追いすがる拓斗の手から逃げ回る。俺たちは本当に遅刻ギリギリになるまで鬼ごっこを続けた……。
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