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第61話 つづき

 壁に出来た染みを見つめる。 「俺、自販機で水買ってくるよ。これ流さないとな」  拓斗が俺を抱きしめる。 「ダメ」 「ちょっと拓斗、ふざけてないで」 「ふざけてない。これはこのままにするの」 「してどうするんだよ」 「記念にする」 「はあ!?」  拓斗は真面目な顔だ。 「君が泣いた記念にする」 「やだよ、忘れろよ」 「僕は君の事ならなんでも覚えていたいんだ」 「……忘れろよ」 「なんで?」 「恥ずかしいだろ」  拓斗は俺の顎に手をかけ、上向かせる。 「恥ずかしがってる春樹、かわいい」  そう言って唇を落とす。俺は拓斗の口づけがあれば、拓斗さえいれば、なにもかもどうでもいいような気がして。  拓斗の首に腕を回した。  そうして俺たちはいつまでも抱きしめあって、これからも思い出を増やしていくんだ。  新しいアルバムを、いつか一緒にめくるために。 「……けど泣いた事は忘れろ」 「いやだ」  拓斗はするっと逃げていく。俺は拓斗に追い付き、その手を優しく握った。

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