62 / 68
幼馴染でプレゼント交換
「春樹、プレゼント交換しようよ」
年の瀬も押し迫ったある日、拓斗が唐突に言った。
「クリスマスのか? 毎年やってるじゃないか」
「みんなでやるのとは別に、二人だけで」
拓斗はにっこり笑う。俺は拓斗の願いなら何でも叶えたい。
「いいよ」
「やった。僕ねえ、欲しいものがあるんだ」
「ああ、内緒で準備するんじゃなくて、ほんとに交換だけなんだな」
「そう。春樹は何か欲しいものある?」
「そうだなあ……、今は思い付かないな」
「じゃあ、探しにいこうか」
「探しに? どこへ?」
「デパートへ」
拓斗は俺の手を取った。
電車に乗って隣町まで。駅ビルの中のデパートをうろつく。
デパートっていうのは、どうして洋服屋ばかりなんだろう。百貨店っていうくらいなんだから、もっと他のものが幅をきかせてもいいのではないだろうか。おもちゃ屋だとかフィギュア屋だとかレコードショップだとか、なんかそういう趣味のものが。
そんなことを考えながら、ファッションに興味のない俺はたいていの店達をスルーしていく。
拓斗もファッションにはうるさくない。というか、何を着てもかっこいい。モデル体型の勝利だと思う。セールのデパートの中、人ごみをすいすい泳ぐように進む拓斗を振り返り見ていく女性も多い。俺は小走りに拓斗に追い付いてコートの裾を捕まえた。
「拓斗は洋服とか見なくていいのか?」
「うん。大丈夫だよ。春樹が行きたいところに行こう」
行きたいところと言われても、これといって思い当たらない。とりあえず上ってみた屋上で青空を堪能してみる。その後、最上階から見回って、あっという間に地下までたどり着いてしまった。
「あ! これがいい!」
俺は一口大の肉のかたまりを指差す。断面は綺麗なピンク色をしている。百グラム四百二十七円也。
「ご馳走ローストビーフ。おいしそうだね。晩ごはんにしようか」
拓斗は旨そうな肉達を二百グラムも買ってくれた。俺はウキウキだ。
「これはこれとして、春樹のプレゼントは別に探そう?」
「いや、これでいい。これがいい」
拓斗は苦笑いしながら俺の頭をぽんと撫でた。
「それで、拓斗の欲しいものってなんだ?」
「うん。八階まで戻るんだけど」
「八階? 本屋か」
俺たちはエスカレーターでのんびりと上る。
デパートは押すな押すなの大盛況だ。地下の食料品売り場なんて通勤ラッシュのようだった。そんななかで出会えたなんて、俺とご馳走ローストビーフは赤い糸で繋がっているに違いない。
「なにをにやにやしているの?」
俺のもう一本の赤い糸の相手が俺の顔を覗きこむ。
「運命ってあるんだな、って思って」
「運命? なにそれ」
俺は満面に笑みをたたえ、それ以上は語らなかった。
デパート内の八階、ワンフロアすべてを書店が占拠していた。この階だけは人混みも落ち着いていてラクに歩ける。
拓斗は数多ある書籍には目も留めず、まっすぐに進んでいく。
「拓斗が本を買うなんて珍しいな。普段は図書館派なのに」
「この本だけは借りられないからね」
そう言って拓斗が平積みにされた中から取り上げたのは、一冊の文庫本。タイトルは『マイブック』。
「あ、それって」
「うん。去年の君のプレゼント。今年も欲しくて」
俺は拓斗の手からマイブックを受けとる。なにも書かれていない真っ白なページだけが続く。自分で書き込む、自分だけの本。俺ならうんうん唸るだけで結局何も書けないまま一年が過ぎてしまいそうだ。
「去年の本は何か書いたのか?」
レジに向かいながら聞いてみる。
「もちろん」
「何書いたんだ?」
「春樹の記録」
「はあ? なんだそりゃ」
「帰ったら見せるよ」
拓斗はにっこりと笑った。
「なんだ、こりゃあ!」
「春樹の記録」
叫んだ俺を拓斗は嬉しそうに見つめた。
「消せよ!」
「無理だよ。油性のインクだからね」
「捨てろよ!」
「だーめ。僕の宝物だからね」
拓斗の笑みに、俺はぐぅっと言葉を飲んだ。
マイブックの中身は恐ろしいものだった。
『四月一日、春樹に「別れよう」と言ってみる。直立不動で涙をぼろぼろ流す。かわいい』
『五月十六日、お弁当に海苔でメッセージを書く「あいしてる」。いきおいよく蓋を閉めて真っ赤になる。かわいい』
ページは、拓斗が俺をからかった内容と俺の反応で埋まっていた。俺は机の上からノリを取りあげ、その蓋を開いた。
「ノリなんかどうするのかな」
拓斗がにやにやしながら俺の手から本を取りあげる。
「返せ! 全ページ、ノリ付けしてやる! お前のいたずらなんか忘れてやる!」
俺が手を伸ばすと、拓斗は高く手をあげ、俺から本を引き離す。十センチ近い身長差と腕の長さの違いで、全く手が届かない。
「あれ? いたずらの記事にしか気づかなかった? こんなのもあるけど」
拓斗は器用に片手でページを繰ると、声に出して読み上げた。
「七月四日、お風呂の中で春樹の新しい弱点を発見。おへその回りを撫でると高い声で喘ぐ」
「なっ! わあ!」
「僕の手を押さえようとするが力が入らず、されるがまま。しばらくそこを攻め続けると腰が抜け床に座り込んでしまった。かわいらしく勃起した春樹の……」
「や、やめろよ!」
本を取り返そうとぴょんぴょん跳ねるが、拓斗はにやにやと余裕の構えだ。
「春樹のことはみーんな記録してるよ」
「す、するなよ!」
「今日のことも書くよ」
「書くなよ!」
拓斗は片手で俺の肩を抱くと唇を重ねてきた。俺は拓斗の胸に手を突き離れようとしたが、拓斗の舌で唇をなぞられ、腰にぞくぞくしたものが走り、力が入らない。
長い口づけのあと、唇を離した拓斗が俺の耳元でささやく。
「春樹はキスで感じる」
「やっ……だ……」
「春樹は僕の声で感じる」
拓斗が俺の耳にキスをする。
「んっ……やだぁ」
「春樹のいやだは感じてる証拠」
拓斗は俺の頬から首へ指を這わす。もう一度、唇が落ちてきて、俺の口内を舐めまわす。俺は崩れ落ちそうになって拓斗の背にしがみつく。
唇を離した拓斗が俺の首を舐めあげる。
「ふ……あぁん」
「春樹は舐められるのが大好き」
拓斗は俺の喉に歯をたてる。
「ひぃああ!」
「春樹は痛いのも好き」
「あっ、やぁ、もうやめて……」
拓斗は俺の頬を舐めながら、服を剥いでいく。唇はだんだん落ちてきて、俺の胸のものを舐める。
「やあっあん!」
「胸も感じるよね」
拓斗の息が胸のものに当たってむず痒い。
拓斗の手が後ろに回り、腰をくすぐる。すぐに下へ下り、後ろをほぐしていく。
「あっ、だめぇ、拓斗」
「春樹はもっとして欲しいときはだめって言う」
俺は力が入らず、拓斗の肩にしがみつく。足ががくがく震えて、腰がずっしりと重くなる。
「春樹は後ろからが好き」
拓斗は俺の背をベッドにつけて横たわらせる。
「でもキスしながらだと燃える」
拓斗はキスを落としながら、俺の後ろに指をいれる。
「ん、んん!」
口を塞がれて息が苦しい。後ろから背骨を駆け上る快感が全身を麻痺させる。拓斗の指が、その場所をなで続ける。
「春樹はここを擦られると、怖くなる。そうだよね」
「っ、そう、やめ……っ! もうやだあ!」
「春樹はおねだりが上手だ」
拓斗がぴたりと動きを止める。俺ははあはあと息を吐きながら、拓斗を見上げる。
拓斗が俺に見せつけるように口元に落ちた汗をぺろりと舐めた。ぞくりとする。
「た、拓斗……」
拓斗は黙って俺を見つめている。その真剣すぎる眼差しが恐ろしくて、俺は震える声でおねだりする。
「拓斗の……ちょうだい」
「どこに?」
「……俺の中に」
拓斗は猛ったもので、俺の後ろをつつく。
「はっ、うん、やぁ!」
「どこに?」
「あぁん! も、いれてぇ!」
拓斗がにやにや笑う。俺はたまらず、拓斗を押し倒すと、拓斗の上に跨がった。それを握ると、俺の後ろにあてがい、一気に腰を落とした。
「ああぁあぁん!」
深く深く繋がって、痛いほどに感じた。俺は拓斗の腹に手を突き腰を上下させる。すぐにくちゅくちゅという音が後ろから聞こえてくる。
拓斗がいろっぽいため息をつく。
「ああ……、春樹は自分で腰をふるのが大好きだ」
「やっ、ちがうぅ」
「春樹は淫乱で毎日しないといられない」
「ひゃあん! だめぇ! いっちゃやだあ」
拓斗は俺の腕を撫でながら言葉を次ぐ。
「春樹は中に出されるのが好き」
「んっ、んん」
俺の腰は止まらない。拓斗が俺の前のものを撫でる。
「あぁん! いやあ! でちゃうぅ!」
「春樹は何度もいかないと我慢できない」
拓斗は俺のものを包み込むと上下にしごきだした。
「ああ! んあ! たくとぉ!」
「春樹はいった顔がすごくかわいい」
拓斗がきゅうっと俺の先端を捻るように引き、俺は精を吐き出した。後ろに拓斗のものが放たれた熱い感触がして、すぐに俺はまた立ち上がる。
「春樹は淫乱だ」
「ち、ちがう」
拓斗が俺を押し倒し、足を抱き込み、激しく腰を動かす。
「あっ、あああ! たくとぉ! いいよぉ!」
「春樹は突かれながら自分でさわるのが好き」
俺は拓斗の言葉に操られるように自分のものに手を伸ばす。ばんぱんに膨らんで、今にも破裂しそうだった。
「自分でしごいてみせて」
俺は言われた通りに自分のものを握りこみ扱く。
拓斗に突かれ続けて腕に力が入らない。握っているだけで精一杯だ。けれどそれでも気持ちがよくて。俺の目から涙がこぼれた。拓斗がその涙を舐めとる。
「春樹はおいしい」
「んっ、はぁ、ぅん、ああ!」
強くねじ込まれ、俺のものから白いものが吹き出す。拓斗はそれを指で掬いとり俺の口に入れた。
「どんな味?」
俺は拓斗の指を舐めて答える。
「ん……なまぐさい」
「そう? 僕には甘くておいしいよ」
拓斗は俺にキスをして口中を味わうように舌をひらめかす。拓斗の唾液は甘くて、俺はよろこんで飲み下す。舌を絡めあい、互いの体を撫で擦る。俺はむくむくと立ち上がる。
「春樹は貪欲で何度だって欲しがる」
拓斗が俺の目を見つめる。俺は拓斗に手を伸ばす。
「もっとほしいよ、たくと」
拓斗は俺のものを擦りながら腰を動かす。
「ひぁ! ああ、あん! たくとぉ!」
拓斗は軽くキスをして言う。
「好きだよ」
すぐに俺たちは一緒に果てた。
「おはよう、春樹」
目をさますと、俺の体はきれいになっていて、服もきちんと着せられていた。拓斗は何事もなかったかのように机の前に座って何か書き物をしているようだ。
「ん、はよ。なに書いてんだ?」
拓斗はにっこりと笑う。
「今日の記録」
「今日の……って」
「春樹は中に出されてびくびく痙攣し……」
「わああ!」
俺は飛び起きて机にとりすがる。が、拓斗が開いたページには、何も書かれていなかった。
拓斗がくすくす笑って、手に持っていた万年筆を引き出しにしまった。
「うそだよ」
「嘘?」
「春樹のエッチな姿なんて書いてないよ。もちろん、前のやつにもね」
「え? なんで……」
「書いたりしなくても僕はわすれないから」
「忘れろよ!」
俺は拓斗の頭を両手でがしっと握る。
「むり。僕、記憶力いいから」
俺は拓斗の頭をぶんぶんと振る。
頭の中身が少しでも漏れ出ますように!
「春樹、頭を振っても記憶喪失にはならないんだよ」
知ってるわい! 俺は拓斗の頭を抱き締める。
「春樹ー、息が苦しいよー」
けれど俺は恥ずかしさに、いつまでも拓斗の頭を離せなかった。
ともだちにシェアしよう!