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第69話 幼馴染で春を迎えて
「う、うかった……」
人が群がる掲示板。俺は数字が羅列されたその中に、見たかった数字を見つけて涙ぐんだ。
「おめでとう、春樹。晴れて大学生だね」
拓斗が俺の頭を撫でる。
「ありがとう、拓斗。……で、お前の合否は?」
「受かってたよ」
けろりと、あっさりと、さっぱりと。拓斗は当たり前のように言う。
「お前は。少しくらい感動してみせたらどうだ」
「春樹! おめでとう! 一緒に通えてすっごくうれしい!」
「いや、そこじゃなく。自分の合否についてだよ」
「だって、僕は受かっても落ちてもあんまり変わらないもの」
拓斗はますますけろっと言う。
「いや、変わりすぎるだろ。大学生か浪人生かだろ?」
「ううん、大学生か、主夫か、だよ」
「はあ?」
「僕、大学落ちてたら専業主夫になるつもりだったから」
「はあ」
「ずっと君の面倒を見るよ。それは変わらない」
拓斗はにこにことほんとうに嬉しそうに笑っている。
「あのさ、何度も言うけど。お前は自分のしたい事をやれよ」
「だから何度も言うけど、僕は君のために生きていきたいんだよ」
何度言われても、この台詞には慣れない。俺は顔を真っ赤にしてコートのポケットに両手をつっこんで歩き出す。
「はーるき、どうしたの、道を見つめちゃって」
スキップしそうな足取りで拓斗が俺の横について歩く。俺は顔を上げられない。拓斗が俺の腕に腕を絡める。
「ほらほら、おめでたいんだから顔を上げないと」
俺は腕を外そうとするが、拓斗はがっちりとホールドして離さない。俺は拓斗に引きずられるような形で家路についた。
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