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第11話
大きな扉の前に連れて来られたシェリダンは跪く女官達に迎えられた。
「シェリダン様、お喜び申し上げます。これよりは私共がシェリダン様の身の回りのお世話をさせていただきます。私は筆頭女官のエレーヌと申します。どうぞ何なりとお申し付けくださいませ」
皆が白い制服を着ている中、赤い服を着ているエレーヌは高官達に取り囲まれているシェリダンに微笑んだ。しかしシェリダンは瞳を彷徨わせて言葉を返せる状態ではない。そんなシェリダンの状態を察したのか、エレーヌは立ち上がって失礼を、とシェリダンの手を取った。
「突然の事で驚かれていることでしょう。しかし、どうかご安心くださいませ。すべてお任せを」
決して引っ張ることのないように注意しながら、エレーヌはシェリダンを誘う。女官達が開いた扉の向こうへと足を進めた。高官達はここで役目を一度終えたのか、中まで入ってくることはなく、女官達の手で扉は閉められた。
ふらふらと未だ混乱と頭痛ではっきりとしないシェリダンは誘われるままに足を進めていたが、立ち止まり、女官達が服を脱がそうとしているのに気が付いて漸く思考がはっきりとした。
「何を……」
自らの服を握りしめてシェリダンは後退る。震えるシェリダンを怯えさせないよう、女官達は殊更ゆっくりシェリダンに近づいた。
「湯浴みのお手伝いをするだけですシェリダン様」
エレーヌが言い聞かせるように言うがシェリダンには到底受け入れられない。
「……自分で、入れます、から……」
絞り出すような声で言う。女のような顔をしていてもシェリダンは男だ。まして女官達に平気で肌を曝して世話をしてもらうことに慣れるほどの上級貴族でもない。
服を握りしめて震えるシェリダンに、エレーヌは暫し考えた後に頷いた。
「では、湯浴みの後はしきたりがございますので、終わられるまで側で待機しております」
そう言ってエレーヌは女官を引き連れて薄布の向こうへと消えた。薄布なので完全に見えないわけではないが、それでも世話をされるよりはマシとシェリダンは無理矢理自分を納得させる。本当なら未だ現実を受け入れていない身としては不本意極まりないが、いつまでも湯浴みをしなければ薄布の向こうからそれとなくシェリダンを監視している女官達に有無を言わさず世話をされるだろうことは流石に予想できたので、震える指でシェリダンは執務服を脱ぎ、湯の張られた大きな湯船に裸体を沈めた。涙が零れ落ちそうになるのを、唇を噛みしめてグッと堪える。口内に鉄の味が広がっても構わなかった。
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