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第12話

「シェリダン様、落ち着かれましたら側に置いてあります洗髪剤で御髪を、その後にお身体を清めてくださいませ」  薄布の向こうからエレーヌの声が聞こえた。嫌だと叫びたい衝動に駆られるが、相手は女官。いくら筆頭とはいえ、女官のエレーヌに訴えたところで彼女には何の権限もない。仕方なくノロノロと言われた通りに髪を洗い、その後で身体を泡で清めた。再び湯船に浸かって少し。湯の熱に身体が火照り、頬が赤くなるが出たくないと心が叫ぶ。しかしそんな叫びも今のシェリダンは聞き届けられない。 「シェリダン様、もうお上がりくださいませ。このままではのぼせておしまいになられます」  エレーヌが大きなタオルを広げてシェリダンの前まで来る。これ以上は駄目だという、明確な合図だった。シェリダンはため息を一つ付いて立ち上がり、広げられたタオルで四肢を包んだ。 「どうぞこちらへ」  手を引かれて促されるまま、シェリダンは薄布の向こうへと向かう。そして待ち構えていた女官達に身体の水滴を拭われ、柔らかそうなクッションの敷き詰められた寝椅子のようなものに横になるように促される。手や足に鈴蘭の香りがする香油を塗りこめられ、抵抗すれば「仕来りでございますから」と押さえつけられた。小さなタオルで局部は隠してくれているが、身体に巻き付けていたタオルを取り外されて隅々にまで香油を塗りたくられる。タオルの中に手を突っ込まれて尻や局部にまで香油を塗られた時には発狂して舌を噛み自害しそうになった。実際にそれをしなかったのは、出来なかったからだ。シェリダンの様子にいち早く気づいたエレーヌが「ご無礼をお許しください」と断ってシェリダンの口に柔らかな絹の布を摘めて舌を噛ませないようにしたのだ。 「どうかお心を沈めてくださいませ。決してシェリダン様のお為にならぬことはいたしませぬゆえ」  その言葉を到底信じることはできない。そんな言葉を聞いている間も休むことなく女官達はシェリダンの身体に香油を塗りたくっているからだ。シェリダンを思ってくれるならこんな恥辱は味合わせないでほしい。シェリダンは男なのだ。女官達に世話をされ、身体中から花の匂いを漂わせる女ではない。しかしエレーヌも女官達もシェリダンを憐れんではくれても助けてはくれないのだ。

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