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第13話

 布を口に含まされたままシェリダンは身体を起こされる。自害しないように、口内の布を取り出さないようにと両手をそれぞれ女官が掴んで拘束しており、吐き出そうにも上手くいかず、シェリダンはされるがままに寝衣とわかる薄布を纏わされ、髪を梳られる。化粧こそされなかったが、銀の髪には小さな髪飾りを付けられ、ひらひらとした寝衣は明らかに男物ではない。女としての扱いを受けて目の前が真っ赤に染まった。 「シェリダン様、少しご辛抱くださいませ」  エレーヌはそう言ってシェリダンの口内から布を取り出し、代わりに透明のマウスピースに似た何かを四つある奥歯の全てに取り付けた。取り付ける際にエレーヌの指を三本は口内に入れないといけないために大きく口を開かされ、苦しさに息が詰まる。取り付けが終わって指が口内から出ていけば、先程布を摘めていた時よりも断然呼吸がしやすくなった。しかし奥歯に取り付けられたものはシェリダンにとって無慈悲な器具であることを彼は知っていた。これは歯の矯正に使われるマウスピースに似ているが、決してマウスピースなどではない。上下左右の奥歯に取り付けられた透明のそれは呼吸も食事も遮ることはない。話すことも普通にできて、日常生活に支障をきたす物ではないのだが、歯を強く噛みしめることが出来ないようにする物であるので舌を噛み千切ることはできない。そして特別な手順を踏まない限り外すことは出来ないので、自分で指を突っ込んで取り外そうとしても不可能。見た目も違和感なく、大口を開けてよくよく見ない限りは付けているのか付けていないのかわからないそれは敵国のスパイなど、死んでもらっては困る者に付ける自殺防止器具だ。  全ての支度が整ったのは夕暮れ時で、シェリダンはエレーヌに手を引かれるまま、周りを女官に囲まれて移動する。促されて入った部屋は大きな天蓋付きの寝台と側のサイドテーブルのみが存在するシンプルすぎる程シンプルな部屋で、シェリダンは促されるまま寝台に腰かけた。この部屋に窓などはなく、蝋燭の柔らかい幾つもの灯りが室内を照らしている。寝台に腰かけたままピクリとも動かないシェリダンの寝衣や髪を女官達が整えてから、彼女達は一人残らず退室していった。シンと静まりかえった部屋に一人残されたシェリダンは未だ脳内がグルグルと渦巻いて冷静な判断ができない。ただ漠然と今までのシェリダンという人間が粉々に潰されていくであろうことは理解できた。

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