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第5話

 和樹はベッド脇のナイトテーブルに手を伸ばす。もう少しというところで届かない。仕方なくベッドから降り、引き出しを開ける。さっき涼矢が眼鏡をそこから取り出していた。眼鏡ケースの隣に、探し物はあった。「置き場所、変えてないんだ?」そう言いながら、和樹はコンドームとローションを出す。  和樹の部屋にも同じものがある。銘柄も同じだ。涼矢が用意しているから当然だった。だが、ここ数年は和樹の部屋でしかセックスしていないのに、この部屋にもそれらがあることに違和感を覚える。コンドームはまだ分かる。マスターベーションの時に使うかもしれない。でも今では専ら挿入する側の涼矢にローションは必要だろうか?  更にもうひとつ気付く。引き出しが外見よりも浅い。二重底になっているようだ。和樹は底板の一番奥に、わずかなへこみを見つけた。そこに指を掛ければ底板が持ち上げられるということだろう。そして、そうした。  二重底の下の段には、いわゆる大人の玩具と呼ばれるものが並んでいた。さぞかし気まずい顔になっているに違いないと、和樹はベッドに伏したままの涼矢を見る。涼矢はこちらを見ていた。和樹が何を見つけたかはとっくに分かっているだろう。だが、和樹の予想に反して、戸惑っても焦ってもいない。 「なんだよ、これ。こういう趣味があったの?」和樹は涼矢を挑発する。 「はい」と涼矢が答えた。 「はい、っておまえ」和樹は笑った。バイブレーターをひとつ取り出して、わざとらしく振ってみせた。「こっちが良かったの? だったら言ってくれれば、いくらでも突っ込んでやったのに」 「いきなりそれより、ローターあたりから始めたほうがいいかと思いますが」 「ああ、こっち?」和樹はバイブをテーブルの上に置くと、今度は丸みを帯びたピンク色のローターを出す。「涼矢がねえ……。やっぱり、気持ちいいもんなの?」 「お試しになったらいかがですか?」意趣返しのように、涼矢が言う。口の端が微妙に上がっていて、和樹にはそれが嘲笑に映る。 「こんなの、必要ない」和樹は吐き捨てるように言った。 「それは……褒められているという解釈で構いませんか?」 「なんで褒め……あ」和樹がローターもバイブも試す必要はないと言うのなら、それは「涼矢で充分に満たされているから」という意味にも取れる。「違うって。そっちこそうぬぼれてるな」和樹はローターを持ったまま、ベッドに戻る。「涼矢がやってみてよ」 「いいですよ」  すんなりと了承した涼矢に、和樹は一瞬ひるんだ。その隙に、手にしていたローターを涼矢に奪われる。それだけではない。あっという間に後ろ手にされ、何かで縛られた。 「何すんだよっ」と和樹が抵抗する。 「私に試せと」 「そうだよ、だから、おまえがっ」 「はい、私が」涼矢は和樹の耳元に口を近づけた。「ちゃんと気持ちよくしてあげますから」  耳元の熱い息に、和樹はビクッと反応してしまうが、それを誤魔化すように強気な声で「違う、おまえが使えって言ってんの。おまえのもんだろ!!」 「そうです。私が、和樹様のために用意したものです。安心してください、実際に使うのは今が初めてで、衛生状態の問題はありません」 「ち、違う、そういう意味じゃ」 「和樹様のおっしゃることは間違ってないですよ。これは私のものです。こう使うために」  涼矢がスイッチを入れ、和樹の下着の上からそれを当てる。 「バッ……よせ、やめっ」和樹は怯えた目で、体をよじってよけようとする。 「ふむ」涼矢はいったん動きを止めた。「暴れるのは危ないので、じっとしていられないですか?」 「できるかよ!」 「じゃあ、仕方ないですね」涼矢はさっき和樹が開けた二重底から、テープ状のものを出す。ガムテープのような幅広のテープだが、色は真っ赤だ。 「え」  たじろぐ和樹の足を開かせ、さらには膝を曲げさせ、腿側とすね側をテープでぐるぐる巻きにする。右足の動きを固定すると、左足も同様にした。右足を巻いている間は必死に抵抗していた和樹だが、左足に移る頃には諦めて大人しくなった。 「あ、しまった」と涼矢が呟く。 「な、な、なんだよ」この期に及んで何か「失敗」していたなら、それはそれで怖い。 「これだとパンツが脱げないですね」 「……」  M字開脚の上に膝を曲げた状態で固定させられ、後ろ手に縛られ、これ以上の苦辱的なポーズがあるだろうか。こっちは涙をこらえてそんな恥辱に耐えているというのに、この男は何を言ってるんだ、と和樹は思う。

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