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【孤島のロマンス】一松
雲一つ遮る物も無く、灼熱の太陽に照らされた島。ジリジリと肌が焼け焦げそうな程に湿度が高い。
そんな南の島国に自家用のジェット飛行機で着陸し、この地に足を踏み入れた。
(日本より暑い・・・・・・何で俺は、こんな暑い場所に居なきゃいけないのか。しかも国外の島に。さっさと帰りたい)
正に日本と比べ物にならないくらいの気温の高さだった。
やっと数時間の飛行が終わり、王室の別荘へ移動を言い渡された。
手際良く飛行機の数メートル先に車が用意されていた。専用の運転手なのか、車のドアを開け、ドアの隣で待っている。
移動用に使用する車は高級車のゴースト・エクステンデッド・ホイールベース。
成功を収めた、ある会社が新設計を行い、各有名な起業家が挙って愛用しているという車だ。
この目で本物を見れるとは、度肝を抜いた。
大智(だいち)は、青黒い色をしたスーツケースのハンドルを引っ張り、家族と車に乗り込む。
そうして、王室の別荘に向かった。
数分間後、別荘に着くと車を降りる。
別荘地は、幾つものの建物があり、その周辺がヤシの木で囲まれていた。
別荘の割には個々の部屋が70室。
門の入口に、どデカい噴水が置かれ、奥には例のプライベートビーチがある。
やはり王室の者が住むと言うのだから、このくらい豪華な敷地じゃないとな、と1人で大智は頷いた。
単純な理由で関心をしていると後ろから誰かに呼びかけられた。
「大智、お前は何時まで突っ立っているんだ」
父親が大智を見つめながら、眉をピクピクさせていた。バッグを持っており、父親の隣に母親と秘書が居る。
「はいはい」
覇気のない返事を返し、父親達が大智の前を通ると後を付いていった。
室内で待機していた、執事の方に部屋を案内され、階段を上る。
こういう時に何故スーツケースを選択したのかを後悔しながら、2階の部屋へと行った。
部屋に到着すると、執事は部屋のドアを開け、手を部屋の方へと向ける。
「鴉沢(からすざわ)様のお部屋は、こちらになります。ごゆっくりとお寛ぎ下さい」
その体勢を保った状態でそう言った。
先に父親が部屋の中に入ると、次に母親や大智が入る。ドアを閉めようとした、執事に対して父親と秘書が軽く会釈をしていた。
家族以外の秘書はまた別の部屋らしい。
「ほら、部屋に荷物を運んだら、陛下と殿下の所まで、ご挨拶しに行くから着いてきなさい」
どさっと荷物を置いた父親が、まず来客したのなら、最初に挨拶が基本だとか何とか言う。
“ 挨拶が基本 ”は置いておくとして、陛下と殿下ともなれば挨拶をしなければいけないのは分かる。
まあ、ウチの父親は日本でトップを誇る大手のIT企業『リトロネクス』の社長だ。その息子が大智に当たる。
何のきっかけかは分かんないけれど、長年の親交があると聞いていた。
何処かの国の王様と仲が良いなんて、嘘だろ? という疑いは今回で軽く消しさられる。
何故なら、その陛下から直々に1通の招待状が送り届けられたのだから。
多忙な父親は陛下の招待には断らないと言う。
例え、何処かの陛下が新たな別荘に孤島を選んだとして、そこのプライベートビーチが絶景だからという理由から、貴族や関係者を招き入れるパーティーが開催されたとしても。
父親にとっては休暇でもあるが、今回は他国からVIPの来客さん達と親しくなるための大事なイベントらしい。
例え通りのパーティーに誘われた訳だが、夜のパーティーまではまだまだ時間がある。
結局、父親に引っ張られながら大智は陛下と殿下の場所まで挨拶をしに伺った。
でも、目の前に居たのは陛下だった。周りを見渡しても殿下のような風貌をした人は居ない。
陛下が言うには仕事の電話が入り、席を外しているようだ。
「すまない、カラスザワ」
流暢(りゅうちょう)に英語で会話をする2人。
陛下は深々な茶色のソファーに座っている。後ろに白色のカーテンが設置されていて、外の風が陛下の髪をなびかせた。
「いえ、滅相もございません。またコーアス陛下にお会いでき、とても光栄であります」
殿下が不在のため、陛下が代わりに謝った。それを慰めようとしている父親。
陛下と向かいあった状態で、父親と大智は立っていた。
「またまた、そのようにかしこまらなくとも。そちらは息子さんかね?」
陛下が喋っている途中、こちらをチラッと見ていた。
父親が返事をして、横にいる大智の背中をポンポンと叩く。
「初めまして、鴉沢大智と申します。以前から父に陛下のお話は伺っております。目の前でお会いでき、光栄であります。今後とも、父を宜しくお願い致します」
自然と歳を重ねていく内に学んだ、ビジネススキルを大智は発揮した。
「おやおや、カラスザワにしては立派な息子だね」
「有難うございます。他の来客の方も陛下とお話したそうですし、これで失礼致します」
陛下は褒めてくれて、父親も何気に頬を染めている。
後ろでつかえているであろう人達の気配に気付くと、他の人へ気遣いを忘れない父親。
「嗚呼、また話そうじゃないか、カラスザワ」
「はい、失礼致します」
笑顔を交わし合う2人。
傍から見れば、凄いだろうなぁと思う顔ぶれ。2人の話を大事そうに聞いているフリをして受け流した。
最後に陛下と交互に握手をして、かしこまった場面が終わった。
そのまま父親と部屋に戻る。
すると部屋に居た母親が、モカを抱えながらこう言い出した。
「モカとプライベートビーチに行きたいから、大智。折角だから行こう」と。
モカは犬で、品種はポメラニアン。白色で身体中にもふもふしてそうな毛皮、クリっとしたつぶらな瞳。
母親はモカに一目惚れをして、大事に可愛がっている。その為、わざわざモカも連れてきたらしい。
大智が渋る顔をしたら、父親に怒られてしまい、敢えなくプライベートビーチに来てしまった。
現在、無数のパラソルがある中に居る。モカとはしゃぐ母親とは違い、大智はパラソルの下でポツンと座った。
外は異常に暑いから、水着に着替えておいた。体育座りで視線を落とす。
ただ目の前を歩く人々の足跡を見るという暇な時間を送っていた。
当たり前の事ながら人々は止まらずに歩いていく。
(はぁ、海は綺麗だけど・・・・・・)
視線を移し、遠目で太陽に反射している、キラキラと輝く壮大な海を眺めた。
海の水しぶきに当たりながら、水着姿の外人は騒いでいた。
正直に言うなら、日本の女性が良かった。顔をゆがめながら、歯に力を入れる。
外人はあんまり興味が無い。
一気に海辺を眺める視界が暗くなった。
パラソルの外から足元だけが見えた。大智と変わらない筋肉質の足で男だと分かる。
たった1人が大智の前で足を止めていた。
しかも、ずっと立ち止まって動こうとしない。
「ねぇ、君は泳がないのかい?」
大智からでも見れるように、パラソルで隠れていた男は、顔を覗かせた。
柔らかな首元まで緑髪が伸びている男。歳が近そうなのに少し幼い顔立ち。ガタイの良さと甘いマスクで微笑んだら、夜の女性はイチコロだろう。
そんなのはほっといて、まさか、ちょっかいを出してくる奴が居たとは思いも寄らなかった。
「いや、いい」
男の質問など適当にスルーした。
傍から見れば、愛想がない男と思われるだろう。目を開き驚く人も居た。
この際、他人の印象はどうでもいい。
(とにかくだ、ほっといてくれ)
愛想が悪い素振りで何かを思い付いた男は手を組んだ。
またしても話し掛けてくる。
「ねぇ、君。もしかして・・・・・・」
一旦、口を開けると喋り続けるかと思えば口を閉じる。
(なんだ? もしかしてって)
「泳げないのかい? ならーーー」
言って欲しくなかった言葉。
決して、泳げない事は知られたくなかった。
予想外の質問が飛び込んだせいで、最後まで言おうとする男に邪魔を入れる。
条件反射のようにこう言い返す。
「そんなんじゃねぇから、ほっとけ!」
つい、声を荒らげた。
こんな事で怒る人間ではないのに、ずっと居続ける男に苛立ちを隠せなかった。
(きっと、この蒸し暑いせいだ)
周りや場の空気が悪くしてしまったと思っても、もう遅い。
男の顔をまとも見ずにその場から離れる選択をした。背を向けて、サンダルに足を入れる。立ち上がると逃げるようにパラソルから出ていく。
後ろで聞こえる男の「待って!」という言葉を無視する。
大智は足を止めない。
「そっちの方を行くと危ないぞー!」
(嗚呼~、まだ着いてくるのか。しつこい奴だな)
数十メートル以上を歩いても、大智以外のサンダルで砂場を踏む音が止まない。
まだ後ろに居るのだろうか、息を切らし太陽に打たれながら歩く。
男の言葉に耳を傾けない。着いてこなくなるまで歩き続けるつもりだった。
「危ないっ!」
男が先に声を上げるけれども、大智には気付かなかった。
崖っぷちだという事に。
自分自身が足を滑らせ、身体が海に投げ出される。
男から必死に離れようと考えて、歩いていたのだから、気づく筈もない。
「うわぁあああーーー」
そう言い訳を並べながら、一気に海の下へと転落した。
ドバッ!
かなりの高さから海の上に身体が激突する。腹に痛みを感じながら、海中に居る事を知った。
両手で水をかいて、足をばたつかせる。
太陽の光で反射した、黄色に輝く海の上まで辿り着こうともぎまくった。
(死ぬ、死ぬ! 息が・・・・・・このままじゃ死んでしまう)
死についての恐怖を更に焦られてしまい、息が切れた。
「大丈夫かい?」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。暗い闇の中から1つの光が差し込む。
若干、瞼が震えを起こしながら目を覚ました。
何回か瞬きをして意識が取り戻そうとする。今自分が何処に居るか、周りを見渡そうと頭を上げた。
「っ! 痛い」
その瞬間、大智の頭に何か硬い物が当たり痛みを感じた。
でも、声を出したのは大智じゃない。
なら誰だろうかとぶつかった人の方を向いたら、なんと例の男が居た。
(な、何で居るんだ!)
驚きを口に出せず、後から背中をさすられている事に気付く。
「お前っ」
男に怒鳴るつもりで居た。
なのに男は抱き締めてきた。とても力強く身体の厚みを知った。
まあ、無理矢理剥がした訳だけど。
その後、目の前に居る男から今までの説明をされ、自分が生きている理由を知った。
先程までの言動を謝り、深々と頭を下げてお礼を言う。
「パラソルの時は悪かった。それと崖から落ちたあと助けてくれて有難う」
「そんな事は気にしないで? 僕も可愛い運命のフィアンセに会えたのだから」
軽く許して貰い安心したけれど、最後の一言が引っ掛かり、気になる所だ。
「は?」
口を開けて無意識には傾げる。
砂場で大智が助けられた時に通りがかった、何処かの女性にでも一目惚れしたのだろうか。
これだから外人は、と呆れながら男の顔を見た。
運命のフィアンセって言い方自体痛々しい。
急に男が肩を触り、引き寄せてきた。
(おいおい、何で肩に触れるんだ?)
何が何だか分かるじまいで、ただただ顔が引き攣る。
ちゅっ。
甘い音が大智の耳の奥まで流れ込んだ。
頬にキスを残された。
大智は自分に起きた事を脳内で考え、止めさせようと口を開ける。
だけども口を開けた事で、更に男が悪い笑みを零した。
男の舌が無理矢理、大智の口内に捩じ込んだ。
舌を欲しがり貪ろうとする男。
何度も舌を這うように、深く深く交わす。また舌同士を絡ませてくる。
自分の舌と違う他人の舌との感触、口内を舌で舐められた時のビリビリとした感覚、その全てで遊ばれていた。
(このままじゃ、男としてやばい!)
咄嗟に身体を後ろに引き下がろうとした。
その考えも敢えなく読み取られてしまい、大智の背中を触ってくる。
触るだけじゃなく、男の身体と距離を縮ませてきた。
こちらを見て、力を無くした姿により男の調子は上昇する。
大智の舌を物足りなさそうに、また欲しがり始めた。
上下の唇の力で大智の舌を捕まえ、唾液を吸い上げる。舌がふにゃんと柔らかくなり、今度は男の唾液が流れ込む。流れ込んだ唾液をただ飲み込む事しか出来なかった。
何度も舌で遊ばれ、性感帯になったような気分に陥る。もう舌で感じる為、絆されながらも味わう。
(・・・・・・キスだけなのに気持ちいい)
ぴちゃ、ぴちゃと音を立てたディープキス。
舌の熱もいいけれど、海から流れる海水が冷たさを教えてくれる。
男の手に少しばかり砂が付いていた。
その手で大智の両頬を包み込んでも、顔中が蕩けてしまう。
段々と男の顔が離れていく。目線が眼から鼻、口元まで下がり、唇を見る。あの柔らかそうで分厚い唇が、大智のに当たっていた事を知る。
「僕のフィアンセが誰か、気付いたでしょ?」
男はそう言って、照れくさそうに歯が見えるくらい笑って誤魔化した。
衝撃な出来事から数分後、使用人であろう、スーツを着込んだ男が大智達に近付いてきた。
この男の前で立ち止まり、大智にも十分に聞こえる声で喋り出した。
「ユージアン殿下、こちらにいらっしゃいましたか。パーティーの支度が整いました」
「嗚呼」
2人の単なる会話に耳を傾けた訳でないが、聞こえないフリは出来なかった。
何故なら、この男に対し“ 殿下 ”と使用人が口に出したからだ。
(ん? 殿下? 今、殿下って言わなかったか?)
頭を傾げながら、考え込む青年がとても可愛らしく見えた。
きっと混乱しているのだろう。
「ちょっ、お前、殿下なの?」
青年をじーっと眺めていると整理が付いたのか、たどたどしく質問をしてきた。
「そうだよ、やっぱり知らなかったんだ」
ずっと周りとは扱いが違うと思っていたら、やはり本当の存在を知らなかったみたいだ。
クスッと笑窪を深くして喋りながら笑う。
それに対して青年は、脳内で整理が付いたらしい。殿下という言葉が効いたみたいで頭を押さえて、痛そうに見えた。
さて、青年を置いてけぼりにして悪いけれど仕事の為にパーティー場へ行こうとした。
「じゃあまたね」
ユージアンは青年に手を振り、元から遠ざかる。
始まりは陛下である父親が別荘地を披露した。そのせいで次々と来客達が別荘に来た。
挨拶など父親に任せればいい、と抜け出し、プライベートビーチに移動してきたのだ。
たまたま、ずっとパラソルの下に座り続けている青年を見つけた。
泳げないのが青年にとっては図星だったらしく、泳ぎを教えようと言ってみた。
けれども、青年は嫌そうな顔をして離れていく。人々が居ない場所へと。
崖がある事は知っていたから、青年を心配して追いかけた。
その海へと青年が落ちてしまった時は、吸い込まれるまま海に飛び込んだ。
ピクリとも動かずに沈んでいく、青年を見つけて抱き締める。確保したまま、海から顔を上げた。
すぐに身体が落ちないよう、がっしりと抱える。
「大丈夫か!」
青年に対して意識の確認を何度も呼びかけた。
「ごっほ、げほっ」
意識が戻ったのか、青年は口の中に入った海水を数滴だけ吐き出す。肺を押さえて咳き込んだ。
「・・・・・・良かった」
苦しげな青年を救えた事に安堵するユージアン。
先程まで強めな当り散らしていたとは思えない程に弱々しい。
(なんて、愛おしい・・・・・・)
うっとりと熱い目線を青年に送る。
ふと我に返り、完全に意識が戻るまでに砂場に運ばないと。海に居る、この状態で怖がるかもしれない。
急いで砂場まで運んだのだった。
END
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