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全部好き
お題 震える指先
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寒い。部屋の中なのに。
体の末端は潮が引くように熱を落としていくのに、胸の周りだけぽかぽかしている。
「慣れないって顔してる」
俺をベッドに押し倒しているユキが頭上で困ったように笑った。俺はユキを見上げて目を逸らす。
「してないけど」
「してる」
覆い被さるように抱きしめられた。首筋と体があったかい。
でも指先は冷たいままだ。
「……やめようか」
耳元で彼が囁く。彼の吐息はぶどうの香り。首を横に振るとベッドシーツの衣擦れの音が深く俺の体に突き刺さる。胸が少し苦しい。
「やめないで」
別に嫌なんじゃない。ユキは好き。
求められることだって嬉しい。全部嬉しい。大好き。
不意にユキが俺を抱き上げる。
迎え合わせになると、彼は俺をまっすぐ見て微笑んだ。俺の手を包み込むように握り込んで、震える指先に瑞々しい果実のような綺麗な唇を寄せる。
これだけでいいよ、って彼が思ってるのが伝わる。本当に思ってる。でも別の場所で俺とエロいことしたいって思ってるのも感じる。ユキの気持ちに応えたいけど、指先がかじかんで仕方ない。
なんか俺は胸がいっぱいいっぱいになっちゃって、思わず顔を歪めた。
「ノエル」
なだめるように彼が俺の名前を呼ぶ。俺はおずおずと彼の首筋に顔を埋めた。
「ユキ、俺……」
ちょっと怖いんだ。こんなこと言ったらユキ、がっかりするかな。言えないよ。
ユキは俺を抱き締めてくれる。子どもを抱くような優しくてなんでもない感じだった。俺はなんとなくちびの頃を思い出す。
「どんなノエルも全部好きだよ」
俺を愛してくれてありがとう、と彼は掠れる声で言う。
なに言ってんのこいつ。ばか。好きだ畜生。
抱き締め返したらくすと彼が笑う小さな小さな音がした。秋の夜長の、すすきが風に揺れるような音だった。
あったかい。彼の熱が吹き込んだ指先は彼の手を掴めそう。
襟首に巻いてあるリボン帯が、ゆっくり解けていく。
終
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