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黄海を泳ぐ①
2019.9.1
紫野楓へのお題は『じりじりと焼け焦げる・人肌を求めて・答えは見つからなくても』です。
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暑い。分かっていたそんなことは。
まるで終わりがないと思えるようなずっとまっすぐな白の一本道をかれこれもう一時間以上黙々と歩いている。周囲には耳障りなほどの蝉の声が耳に張り付くように聞こえている。どこにいるっていうんだろう。周囲に木なんか見えない。周囲は夏草の生い茂る大きな丘で、道と、緑と、空、雲、太陽、それだけ。麦わら帽子を被っていても、じりじりと焼け焦げるような太陽の日差しは着実に俺の体力と精神力を奪っていった。
この丘を越えれば森に入る。そうすればこの暑さもだいぶマシになるはずだ。
歩く先を見やるとあまりの暑さに陽炎が揺れている。この中を歩いているのか、俺は。俺の背後から見たら俺も陽炎の中で揺らいで見えているのだろうか。
額やこめかみに流れる汗をこれまた汗の滲んだ腕で拭いながらふと後ろを振り返った。
彼の姿は想像した以上にはるか彼方にいた。陽炎の中で揺らいでいる。目を凝らした。屈んでいる。俺は深いため息をつきながら、今まで歩いてきた道を引き返す。
「玻璃、しっかりしろ」
屈んでいる玻璃の顔を見上げるようにしゃがむと、彼はこの暑さにも関わらず酷く蒼ざめた顔をしていた。元々白い肌をしているから余計見るに耐えない。タンクトップの俺と違い、彼はオフホワイトの丈の長い麻のブラウスを着ている。
青紫の大きなリボンの巻いてある白い帽子の隙間から玻璃の瞳が見える。明らかに無理している瞳だ。辛い、と訴えている。
「……大丈夫。先に行っていて、追いつくから」
口ではそう言っているが無理しているのは火を見るよりも明らかだった。だいたい口と行動が伴っていない。こんなところでしゃがみ込んでいては、丘を越えて森へ行く頃にはすっかり日が沈んでいるに違いない。
「少し休もうか」
「平気だ。追いつくから……気にしないで、行ってくれ」
俺が先に行くもなにも、この遠出はそもそも玻璃が誘ったものだ。仮に俺だけが辿り着いて玻璃が辿り着けなければ本末転倒だ。意味がない。しかし、玻璃が頑固なことも知っている。
俺には彼を背負って歩く体力はある。でも自分の足で歩きたいと言った彼の気持ちもよく分かっていた。彼は聡明だし、元々病弱な彼にとってこの遠出が無理のあるものだということは重々分かっていたはずだ。
それでも彼は行きたいと言った。見たい、と言った。
そして俺はそれを承諾した。俺の見たいものもそこにあると思ったから。
リュックから水筒を取り出して彼に差し出す。
「飲んだら歩くぞ」
彼は蒼ざめた顔で笑いながら水筒を受け取る。
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