13 / 19

三匹の子豚ゲーム❷

 紫は騎一とミチルの勢い気圧されて深く考えずに頷いてしまいました。  小夜が笑って言いました。 「はい、じゃあ決まりね。手紙を渡しておくわ」  彼女はアイスクリームスプーンをくるくる回すと、リボンの通された手紙が三人の首にそれぞれかかります。 「その手紙は鍵がないと開かない魔法がかかっているの。だからどれだけ力を入れたって蜜蠟は解けないし、手紙も燃えたり破れたりしないわ」  ミチルの手紙の蜜蠟には蜜蜂が刻印されています。騎一のものはリボンとレース、紫のものは紫陽花です。 「狼はその蜜蠟の刻印と同じヘッドの鍵を持っています。手紙の蜜蠟と同じ刻印の鍵がないと手紙を開くことはできない。その鍵を奪えたら豚の勝ち。逆にその手紙を取られちゃったら狼の勝ちね」  分かった? と小夜は聞きました。 「分かった」 「なんとなく」  ミチルと騎一が言いました。  紫はいまいち釈然としない顔をしています。  騎一が紫に言いました。 「狼が持っている鍵を奪うんだ、でもこの手紙は奪われちゃダメ」 「鍵を奪う、んですね」 「そう。鍵を奪ったら勝ち。まあでもそういう荒い仕事は全部ミチルがやってくれるから大丈夫」  ミチルが苦笑します。 「俺ってそんなに乱暴に見える?」 「いや普段は別に、でも春人のことになると狂気的ななにかをたまに感じる」 「それ褒められてるの?」 「個性があっていいじゃん」 「騎一に言われると重みがすごい」  閑話休題。小夜がぱちん、と手を叩きました。 「豚は家を建てて、来たる狼に備えなさい。それでは解散!」  楽しませてもらうわ、と彼女は吐き捨てて家もろとも一瞬にして消えました。  三人は原っぱに取り残されました。  しばらく呆然とお互いの顔を見合わせていましたが、ミチルが重い腰を上げます。 「とりあえず家を建てるか」 「そんな簡単じゃねえだろ」  騎一がドレスのホコリを払いながら言いました。 「でも作るしかない。幸い獣の匂いもしない。多分狼が来るまでには、家を建てる分の猶予があるんだよ」 「匂いなんてよく分かるな」 「鼻が良いらしい。随分向こうの蜂蜜の匂いまで感じる」 「いろいろ苦労しそう」  ミチルは肩を竦めました。  しかし、家なんてどうやって建てましょう?  ミチルと騎一は困ってしまいました。  どうしようもなかったので、とりあえず原っぱに寝転がることにしました。  ふわふわの原っぱはいい気持ち。  空も青くていい気持ち。 「住むならどういうお家がいいんですか?」  隣で座っている紫が聞きました。  そうだなあ、と騎一は間の抜けた声で言います。 「とりあえず三人で住みたいよなあ」 「(みどり)に殺されそうではある」  ミチルが言いました。 「確かに……じゃあ個室作ればよくね」 「あーいいね、シェアハウスみたいな?」 「それだったら翠も怒らんだろ」 「……ちょっとは怒るかも」 「まあちょっとはね……でも紫が狼に食べられた方が、翠に怒られる気がするんだよなあ」 「怒られるじゃ済まない気がする。やっぱルームシェアしたほうがいい」 「みんなで住んだ方が楽しいしね。どうせなら好き放題できる部屋だといいなぁ」  騎一が背伸びして起き上がると、紫が控えめに言いました。 「どういうお部屋がいいんですか?」  うーん、と少し考えて、騎一は言いました。 「俺は大好きな俺好みの上質な服がいっぱい入っているクローゼットのある部屋がいいな。あとベッドはふかふか! で天蓋付きのやつ! それから美味しいお茶とお茶菓子が食べられるスペースが欲しい。お風呂も綺麗でゆったりできるのがいいよねー。ミチルは?」  ミチルもうーん、と少し考えて言いました。 「俺は作業台とミシンがあって、ずっと裁縫できるような部屋がいいな。トルソーも何台かあってさ、編み物もしたいね。服を作る布や装飾なんかが全部揃っていてさ。日がな一日、永遠に春人のこと考えながら裁縫していたい……あとはやっぱりはちみつだよね」  他には、と騎一が付け加えます。

ともだちにシェアしよう!