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三匹の子豚ゲーム❸
「外の空気も吸いたいし、天体観測できる小部屋とかあったら最高じゃない?」
「ああ、屋根裏みたいな?」
「そうそう屋根裏! ちょっとした秘密基地!」
「ロマンがあっていいなあ」
ミチルがうんうん、と頷きました。
「地下もいいよね」
「石畳のでしょ?」
「そうそう! ちょっとゴシック」
「だったら外観はやっぱゴシック建築だよ」
「ゴシック建築! いいねー素敵」
「煙突があって、おっきい暖炉があって、そこでお湯を沸かすんだろ?」
「狼が煙突から入ってくるからね、用意しないといけないよね」
一通り夢物語に花を咲かせた後、二人は現実に戻って深いため息を吐きました。
「まあ言うだけならタダでしょ」
苦笑していたら、紫が音もなく立ち上がります。
彼が右手を目の前にかざすと、一瞬にして家が建ちました。
二人が言った通りの立派な家が目の前に現れたのです。
紫は一仕事終えたスッキリした顔をしながら二人を振り返って笑いました。
「こんな感じでどうですか?」
「何が起こったか簡潔に説明して欲しい」
騎一が真顔で言いました。
「家を建ててみました」
「いや簡潔すぎ! どうやって建てたの!?」
「シュっとして、パッで」
「なるほどねぇー! シュッとしてパッてできるよねー! 家なー! いや分かるか!」
呆然としていたミチルが窓から中を覗いて口を開きます。
「内観も俺たちの言った通りになってる……紫すごい! ありがとう」
「喜んでいただけてよかったです」
紫は少し照れながら言いました。
兎にも角にも、三人は紫が建てた家で暮らし始めました。
狼はまだ来る様子がありません。
時間があるのなら、と、ミチルと騎一は家を建ててくれたお礼に、紫に新しい洋服を作ってあげることにしました。
三人でミチルの部屋に集まります。そこはミチルが思い描いたような裁縫のアトリエです。
ミチルが楽しそうに紫の服を吟味して言いました。
「その無難でシンプルな感じもいいけど、ちょっとクラシカルっぽくしてみたら?」
「クラシカル……?」
紫が首をかしげます。
ミチルの隣で紫を見ていた騎一も言いました。
「ネグリジェみたいな?」
「ネグリジェか、きっと似合いそう。いいね、そういう感じ」
「翠が見たら鼻血出して気を失いそうだけど」
騎一が冗談っぽく言うと、紫が血相を変えます。
「そんな! そんな服着られません……!」
「天然はツッコミに困るから」
「でも外で着るんだからネグリジェは繕わないよ、あくまでもそんな感じ、ってだけ」
ミチルが苦笑しながら言いました。
「だったらシルエットはチュニックっぽい感じにして、ネグリジェみたいにふわふわなところは採用、でどうかな。ちょっと神秘的な、フェアリー感!」
「さすが騎一。いいね。じゃあドレープができるように後ろにボリュームを作ろう……素材はサテンの方がいいかな?」
「いや、どちらかと言うとリネンとかのほうが紫には似合うんじゃない? ナチュラルな感じがサ」
「確かに、じゃあ胸もとのリボンもリネンにしよう……色は……赤紫」
「それがいい、襟とか袖に小さいレースつけたいよね」
「シンプルなものなら今ちゃちゃっと編めるよ」
ミチルが話しながらナチュラルホワイトのレース糸を引っ張り出して、洗練された動きでレースに編み始めます。
紫は全く話についていけませんでしたが、その手際にはうっとりしました。
「そうそう、こんな感じこんな感じ!」
騎一も感動したように弾んだ声になりました。
それから二人は採寸をしてあーでもないこーでもないと言いながら型紙を作り始めました。紫は騎一の部屋から持ってきたオシャレなテーブルチェアに腰掛けてそれを見ていました。
「なんかリクエストある? どうせやることないし今ならなんでも叶えちゃうよ、ミチルが」
ひと段落ついた騎一が、紫の隣に座って言いました。
それでは、と紫が控えめに口を開きます。
「胸元に花の刺繍が欲しいです……」
「なんの花?」
「紫陽花」
「あーいいね、紫陽花、刺繍。ミチル、紫陽花の刺繍してほしいって」
「任せて、じゃあ襟元に咲かせよう」
何日かして、ようやく洋服が出来上がりました。
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