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三匹の子豚ゲーム❹
ミチルと騎一は手を合わせて喜びました。
興奮冷めやらぬ様子で紫に言います。
「着てみてよ!」
紫が袖を通すと、ミチルと騎一は腕を組んでうっとりして言いました。
「女の子みたい」
「女の子じゃん」
「女子!」
「可愛い」
「可愛いよね」
「てかミチルやっぱりほんと裁縫得意だよね」
「騎一もデザインのセンス光ってる」
二人を他所に、紫は少し恥ずかしそうです。
熱い視線に俯くと、騎一がパチン、と指を鳴らして言いました。
「髪もアレンジしちゃう? シニヨンとか」
「シニヨン! シニヨンはいいね! 紫に絶対似合う」
ミチルも大賛成で、紫はされるがまま騎一に髪を梳かれてアレンジされました。
仕上げに紫陽花のコサージュをつけて、二人はまたうっとりした顔で言いました。
「……おとなの女子じゃん」
「おとなの女子だ!」
「おとな女子!」
「翠が失神する」
紫の顔から血の気が引いたので、二人は慌てて首を横に振ります。
「うそうそ、冗談、言葉の綾」
「それぐらい素敵って意味だから、そのままでいいよ」
「翠に見せるまでその格好でいなよ」
「うんうん、それがいい」
姿見は見ませんでしたが、紫は十分幸せでした。なにせ誰かに服を作ってもらったことも、髪を整えてもらったこともありませんでしたから。
紫はこの事実だけで両手で抱えきれないくらい幸せだったのです。
「ありがとう、ミチルくん、騎一くん。この洋服大切にしますね」
紫は洋服の上に、レインコートを纏いました。
「カッパは着るんだね」
ミチルが笑って言うと、紫は得意げに言います。
「私は紫陽花の妖精ですから」
騎一が手を絡めて素敵、と笑います。
「紫陽花フェアリー! 紫陽花フェアリーコーデ! 最高じゃん!」
「字面だけでなんか薫ってくる」
二人も可愛い紫を見ることができてとても幸せでした。
しかし……その幸せも長くは続きませんでした。
「誰か来る……足音が三つ……」
紫にもミチルにもその音は聞き取れませんでしたが、騎一が真面目な顔をして言うので、二人とも生唾を飲み込みました。
ミチルが匂いを嗅ぐように空気を吸い込みます。
「獣の匂いもする。狼だ……!」
三人は自分の首元にかかっている手紙の存在を思い出しました。手紙はすっかり体に馴染んでいたので半分忘れていました。
それほど三人の短い生活は楽しかったのです。
三人は顔を見合わせて頷きました。
そう言えばゲームの最中でした。
ミチルの部屋を出て出入り口の方に行きました。頑丈な鍵をたくさんつけて狼に備えます。
ミチルが物置部屋から釘バットを持ってきて笑いました。
「任せておいて。血祭りにする」
「物騒だな」
好戦的なミチルからは、さっきまでお針子のように針を持っていた姿など微塵も想像できませんでした。
ドアが控えめにノックされます。
ミチルの顔つきが変わりました。
呆然とした顔で騎一たちを振り返ります。
「この匂い……は……」
「……開けて」
声を聞いた騎一は絶望しました。
詰んだ……!
釘バットを床に落としたミチルがドアに張り付きます。
「……春人 ?」
「……そう、春人だよ、開けて」
「もしかして、狼……?」
「うん……僕、狼。ミチルを食べにきたの」
ミチルは開いた口を手で覆って言いました。
「待って、耳とか尻尾とか生えてたりする?」
ふふ、とドアの向こうで春人の声が笑います。
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