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三匹の子豚ゲーム❻

 瞳がぎらりと光ります。薄い唇を舌で舐めると、唸るように言いました。 「騎一、俺はお前を食う」  騎一は深いため息をついた後にうずくまって顔を伏せます。  紫が慌てて騎一の表情を覗き込みました。 「……どうかしましたか?」 「ミチルの気持ちがよく分かって辛い」 「騎一くん……」  そんな騎一などお構いなしに、郁は距離を詰め始めました。 「俺は……速いぞ」 「俺は強いみたいに言うな」  ほっぺを両手でパチパチ叩いた後、騎一はパンプスの紐を解いて投げ捨てました。  少し顔が赤いのは叩いたせいなのかそれとも別の理由からなのか誰にもわかりません。 「郁はやっぱり超絶世界一可愛いし大好きだけど……これはゲーム……勝敗のつくゲーム……しからば負ける気はさらさらない……」  切れた髪を結んで大きく息を吸いました。 「鍵は絶対にもらう」 「お前が俺から鍵を奪うことは不可能」 「どうしてそう決めつける?」 「分かりきってるんだよ」  無駄だ、と言って郁は挑発的な笑みをこぼしました。 「そんな動きづらい服で俺に敵うわけないだろ」 「馬鹿だな……ハンデだよ……ダサいTシャツのくせによく言うよ」 「Tシャツは関係ねぇだろ!」 「士気が下がる」 「オシャレだろうが!」  騎一は振り向かずに、後ろにいる紫に耳打ちをします。 「走って、上まで、逃げて」 「騎一くん……」  不安そうな彼の声に、騎一は一瞬だけ振り向きました。  彼はいつものおどけた顔でウィンクをします。 「できたら鍵も奪ってね」  紫は下唇を噛んで上り階段を駆け抜けました。  息を弾ませて登ります。下の方から家が壊れる音が聞こえました。一瞬で建てた家だったけれど、壊れるのは寂しい気持ちになりました。  一人で上を目指すのはとても物悲しいなと思いました。  屋上に続くはしごを登って屋根に出ました。  外は夕暮れで、間も無く夜がやってくるようです。空は紺色とオレンジが合わさって、不思議な景色でした。遠くで一番星が煌めいています。  紫は行き場をなくして、とりあえず煙突の近くまで歩いていきました。  屋根は高く飛び降りたら死んでしまうようなほどです。  風が冷たくて紫の中に生まれた切なさをより一層煽りました。  狼でもいいから誰か来て欲しいと思ってしまいます。  一人はとても寂しいから。  爆音がしました。紫は思わず頭を押さえてうずくまります。  目の前で屋根に穴が空きました。  瓦礫の雨が降ってきます。  飛び出したのは狼でした。  狼はシュタっと紫の目の前に降り立って、首の骨を鳴らします。  黒い耳と、大きくてふわふわの尻尾をゆらゆら揺らしながら、紫のことを見て笑いました。犬歯が怪しく光ります。 「翠くん……!」  狼は翠でした。  紫は嬉しくて、にこ、と彼に笑いかけます。 「この世界でも長靴を履いてるんですね」  あはは、と彼は笑いましたが、声も瞳も笑っていませんでした。  獣の匂いがしました。  紫を狙っている目です。あまり穏やかじゃありません。 「カッコイイでしょ」 「ええ、とても」 「あなたもそのカッパ、可愛い」 「……ありがとう」  紫はそんな翠などおかまいなしに俯いて頬を掻きました。頬が真っ赤なのは、夕日に照らされたせいでしょうか。 「ちなみにそのカッパの下の服はなに」  一瞬で距離を詰めた翠が、紫の透明なレインコートをはぎ取りました。  レインコートは地面に向かって落ちていきます。 「いつもと雰囲気違うじゃん……てるてるぼうずみたいで可愛いんだけど……髪型もどうしたの? 本当に可愛い。童話バージョンなの? 仕様? そういう仕様?」  いつもより息の荒い翠にくすくす笑いながら照れくさそうに紫は答えます。  

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