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第4話

 五月のゴールデンウィーク明け。  高等部の二年に、季節外れの転校生がまたもや学園にやってきた。  そいつは、Ωだった。  園原(そのはら)涼太(りょうた)。  涼しげな名前の似合う、背が低くて華奢な――男でも守ってやりたくなるような、そんな雰囲気の男子生徒だった。  顔だちも派手ではないが愛くるしく、表情が豊かで、とても、……男に対してこの表現はどうかと思うが、そう、とても可愛らしかった。 (俺とは百八十度違うな)  噂の転校生をこっそりチェックした俺は、なぜかそんならしくもないことを思った。  園原は、どんな手管を使ったのか、あっという間に生徒会の面々を(とりこ)にしてしまった。  ――信じがたいことに、薫も例外ではなかった。 「おい、薫。部外者を生徒会室に入れているそうじゃないか。どういうつもりだ」 「……(あおい)か。アクションが早いな。まだ数回だ。そう目くじら立てるなよ」  俺を魅了した藍色の瞳が笑いながら俺を見る。  その色は変わらないのに、――今までとは何かが異なる気がした。  俺は息を飲んで親友でありライバルであり同志である男を見つめる。 「――大目に見てくれないか? 風紀委員長サマ」 「例外を作れば規律が乱れる」 「お堅いことで」 「薫」  茶化して話をはぐらかそうとしているのが見え見えで、苛立ちが芽生える。  ……長年の相棒が何を考えているのかわからない。  こんなことは初めてだった。 「知ってるか?」  戸惑う俺をあざ笑うかのように、さらに薫の不可解な言動は続く。 「Ωっていうのはいい匂いがするんだぜ?」 「――」 「男を誘う匂いだ」  蠱惑的な眼差しが俺を射止め、ぐっとその整った男らしい顔を近づけてくる。  視線の高さは変わらない。  結局、俺の身長が止まることはなかった。  αの薫とΩの俺は、ほぼ同じ身長だ。  だからこそ、俺は今までαとΩの性差をあまり気にすることもなかった。  だが、――園原の登場により、その均衡がいつの間にか崩れていたのかもしれない。  薫の手が俺のうなじをスルリと撫ぜた。  完全な不意打ちに、びくっと肩が揺れてしまう。 「かお…っ」  息がかかるほどの至近距離で見知らぬ顔の男が(わら)い、低い声で囁いた。 「ここを噛んで、αはΩを己の(つがい)にする」  心臓が止まりかけるほど驚き、次いで激しい動悸が沸き起こる。加速する心臓の音が胸部から漏れやしないかと、俺は恐れ、冷や汗をかいた。 「なにを……」 「――αは本能で番を求めるそうだ」

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