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第6話

 俺は一度目を伏せ気持ちを切り替えると、視線を薫の隣に立つ園原へ移した。 「園原」 「え…? はい…」  園原は大きな目をしばたかせ、名前を呼んだ俺を不安そうに見る。怯えの宿る瞳を真っ直ぐに見据えて俺は進言した。 「生徒会に入り浸るなら、周りを納得させる肩書がいる。生徒会庶務に推薦するから、担任に話を通して明日、風紀委員室まで来るように」 「あ…え…えぇ…?」  慌てて薫を見上げて助けを求める園原に、俺はじわりと胸に湧く正体不明の不快感を押し殺して努めて冷静さを装い、我が校の生徒会長に宣告する。 「――薫、否やは言わせない。風紀委員長の推薦状があれば問題ないだろ」 「わかったよ、風紀委員長サマ。了解シマシタ」  薫は苦笑いで応じた。  翌日。  転校生の園原涼太が風紀委員長推薦の元、生徒会庶務に任じられたという情報が学園内を(にぎ)わした。  だが、各所に配置した風紀委員が目を光らせていたので、園原に対する制裁などに発展することはなく、それほど学園も荒れることなかった。  なにかと園原に構う生徒会の面々も仕事をおろそかにすることはなかったので、学園は通常通り機能していた。  しかし、それはどうやら表面上のことだけだったらしい。  もうすぐ夏休みに入ろうという時期になって、園原が学園に在籍するαの生徒に襲われた。  ――俺は、風紀委員長でありながら、園原を守れなかった。  見舞いに行った俺を、彼は憎悪に(まみ)れた眼差しで(ののし)った。 「あなたのせいだ。あなたのせいだ。……あなたは、αなんかじゃない。偽物のαだ。僕にはわかる。僕にまったく反応しないあなたはαなんかじゃない。βだ。αのふりをして皆を騙すβだ。αじゃないから、わからないんだ。αがΩを放っておくわけなんかないのに! あなたのせいで、僕は薫先輩の番になれなくなった! …っ、乱暴されたとき、うなじを噛まれてしまったから! もう薫先輩の番になれない!」  俺は、激した園原に何も言うことが出来ず、――その場から逃げ出した。  走って走って走って。  気づいたら、薫の家まで来ていた。  園原の激情の意味も。  なぜあれほどの怒りを向けられたのかも、俺は深く考えることができなかった。俺の中で様々な感情が渦巻き、せめぎ合い、飽和状態になっていた。  αでないと糾弾されたことも、みんなを騙していると詰られたことも、不本意にうなじを噛まれた園原の嘆きも、すぐには受け止めきれないほど重かった。  ただ、薫に会わなければならないという強迫観念にも似た強い想いに突き動かされ、ひたすら走った。

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