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抵抗

「ロウ……どこだよ?俺はここにいるのに……何で来てくれない?」  雨に濡れた髪を振り乱し、眠っているトイを抱っこ紐で急いで包もうとするが、上手く紐が結えない。その時になって、カタカタと手が震えていることに気が付いた。  一刻も早くロウを探しに行かないと……そう思うのに、どうしても気ばかり焦ってしまう。  ロウの気配がなくなり、番の証をつけてもらった場所が冷たくなっている。もうそだれだけで、ロウの身に危機が迫ったことを充分察することが出来た。  俺の戸惑いが、お前を追い込んだ。  俺の生まれ育った土地では、ロウのようは半獣は異端だと忌み嫌われていたのに、俺は不思議なことに、すんなりとロウのその姿を受け入れられた。それはお前が俺にとって必要不可欠な存在だったからだ。そしてトイを産んでからは、お前が狼の顔をしていることなんて当たり前のように過ごしていたから……  俺の配慮と注意が足りなかったのだ。  あぁ……後悔に押しつぶされそうだ。  その時、突然この場所に近づいてくる足音が聞えた。  「誰だ?」  ロウか……いや違う!ロウの足音ではない。これは人間だ……まずい!  慌てて自分の胸元のボタンをしっかり閉じ、トイの顔を抱っこ紐の中に埋めて、岩場の下の窪みから逃げようとしたが、一歩遅く、背後から険しい声を浴びてしまった。 「待てよ!お前……トーチだろう?」  俺の肩を掴み呼び止めたのは……この声は……振り向くと俺の幼馴染のアペだった。手には弓と剣を持ち、血相を変えていた。 「ア……ペ……何で」 「やっぱりトーチだ!お前、生きていたんだな!良かった!」  ガバっと抱きしめられそうになって、俺は慌てて身を引いた。 「待てよトーチ、なんで逃げようとするんだよ」 「あっ……その……」  どうしたらいい?どうしよう。  お前に何を……一体何から話せばいいんだ? 「とにかくトーチが生きていて嬉しいよ。もう死んじまったのかと思ったが、諦めなくて良かった!」 「……何で、死んだなんて?」 「だってお前、狼の半獣に攫われちまって……あっすまん。あの時、助けに行けなかったことは恥じてる。だから仇を討ってやろうと、こうやってアイツを追いかけてきたんだ」 「なんだって!あの日……お前は傍にいて、俺を見ていたと?」  動揺が走る。まさか乳の秘密がバレてしまったのか。それに仇ってなんだ? 「ロウに会ったのか……まさかお前、ロウを捕らえてしまったのか」 「だってあいつはトーチを攫った犯人だろう?だから捕まえて拷問してやった」 「なっ何てことを!行かないと……今すぐにロウの所に!」  俺の肩を掴むアぺの手を振り解こうとすると、更に強い力で押さえつけられてしまった。 「さっきから何言ってんだ?あの半獣なら、もういないぞ。ロウって名前なのか……アイツに何をされた?アイツに攫われたんだろう。なのに……あんな化け物をどうして庇う?」  アペは信じられないといった形相で、怒りで顔を赤くしている。今は何を言っても無駄だ。俺はアペの手を今度こそ強く振り解き、背を向けて歩き出そうとした。 「すまない……アペの知ってるトーチはもういない。もう忘れてくれ」 「おい?何てことを言うんだ。忘れられるはずないだろう!それにお前、さっきから大事そうに何を胸に抱いている?」 「ふっ触れるな!」 「駄目だ!中をちゃんと見せろ!」  町の中でも人一番大柄で逞しかったアペに、俺の力が敵わないのは承知だ。でもトイだけは俺が守る!ロウが近くにいない今、息子のトイを守れるのは俺だけだ。俺はトイの親だから! 「やめろっ!離せ!」  必死に手を振り払うのに、アペは器用に抱っこ紐の結び目を解こうとしてきた。  そしてとうとう抱っこ紐ごと、トイを奪い取ってしまった。 「あぁ……返せ!それは……俺の……っ」

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