14 / 30

冒涜

「えっまさか……これ……赤ん坊?」  抱っこ紐に隠していたトイの姿を、とうとうアペに見られてしまった。 「返せ!トイを返してくれ!」 「なんだ?えっ……みっ耳と尻尾が生えている。でもこの顔は……おいっ一体どういうことなんだよ!獣のくせに、顔はトーチの小さい頃にそっくりじゃないか!まっまさか、そんなっあり得ない!お前とあの獣人に何があったんだよっ!」 「アペ……落ち着け……どうか落ち着いてくれ。お願いだから、トイには危害を加えないでくれ」  俺の胸をから奪われたトイは、未だに丸まってスヤスヤと眠り続けている。まるで防衛本能が働いているかのように、さっきから目覚めない。どうかそのままじっと大人しくしてくれ。泣かないでくれよ、いい子だから。  アペは土の窪みに抱っこ紐に入ったトイを置き、俺に詰め寄って来た。 「トーチは……もしかしてオメガだったのか。だから……あの獣人の子を産んでしまったのか。なんでだよっ!なんで獣人の子なんて!そうか、あいつに無理矢理犯されたんだな」  いきなりアペにガバっと抱きつかれて、気が動転した。  すごい力に、動きを封じられてしまう。 「やめっ……離せっ!違う!俺が望んだことだ。全部!全部、俺が!」 「くそっお前の秘密なら俺が守ってやったのに!何でよりによって獣人の子なんて……あぁ、もう我慢の限界だ。さっきからずっと我慢していたが、お前の匂いにクラクラするんだ……ううぅ」 「アペっアペ!やめろ!正気に戻れ!」  あろうことか、アペが俺のシャツを力まかせに一気に引きちぎった。ポンっとボタンがはじけ飛んでいくのをスローモーションのように見つめることしか出来なかった。  絶望していく。 「やっぱり……胸にこんな布なんて巻いて……もうこんなに漏らして……」 「やめろっー!見るな!お前には見られたくない!」  発情期のフェロモンにあてられるというのは、このことを言うのか。アペは正気を失い、胸の晒しをじれったそうに外し出し、やがてナイフで一気に引き裂いてしまった。  雨で湿った空中に、白い布が虚しくひらひらと舞った。 「嫌だぁぁあ!」  必死に逃れようとするが、地べたに押し倒され馬乗りに跨られ、胸を露わに暴かれてしまう。慌てて両手で隠すが、すぐに払われた。 「みっ見るな!」 「おいっすごいな。もうこんなに乳が溢れてるじゃないか。それにこのぷっくりとした乳首……美味そうだ」  なんでこんな時に発情を……番が出来たら、もうこんな風になるはずないのに。まさか番のロウが死んでしまったからなのか。だからこんなにもいやらしい匂いを発散し乳を垂らしているのか。  俺はこんなの望んでない!  だがこの匂いにあてられたアペは、完全に理性を失っている。  「トーチ、なんで俺を選ばなかったんだよ!俺がアルファだって知っていただろう?今からでも遅くない。俺の番になれよ!この乳も俺がずっと飲んでやるから。優しく守ってやるからさ」 「やめろ!そんな風に守って欲しくない!ロウは生きている!こんなのオカシイ!眼を覚ませ!お前は俺の幼馴染だ。大事な……」  聞く耳を持たないアペは、ついに長い舌を伸ばし、俺の乳首をベロベロと舐め始めた。 「なんだこれ……すげぇ甘い!病みつきになる」  夢中になったアペに、強引に乳を搾り取られた。 「うっ……やめろっ……ぐっ……」  こんなの、ちっとも良くない。  ロウに吸ってもらった時はあんなに気持ち良かったのに、今は気持ち悪くて吐きそうだ。思わず自分の口を手の平で覆った。  四肢を押さえつけられ憐れに剥き出しにされた乳首を、幼馴染の男に吸われている姿。赤子とはいえトイに見られなくて良かったとだけ……失意のどん底で思った。  涙なんて流したくないのに、悔し涙が滲み視界がグラグラと揺らぐ。 「美味しい……美味しいぜ。トーチの乳は最高だ」  ぴちゃぴちゃと胸元で卑猥な水音がして、羞恥に震えた。  悪夢だ。一番恐れていたことだ。  ずっと一緒に成長してきた同性の男に秘密を暴かれ、胸を犯される……今、まさにそれが現実に目の前で起きている。  でも、抵抗したい!  以前の俺だったら、このまま泣き寝入りし諦めてしまったかもしれない。でも今の俺はロウと番になり、トイの親となった身だ。  今うなじを噛まれたりでもしたら、俺は二度とロウに会えなくなる!トイの父親を失ってしまう。  アペは更に興奮し俺の下半身に手を伸ばし、怯えきったものを手で強引に揉み込んで来た。痛みが走り一気に鳥肌が立ち、嫌悪感が増す。 「アペ!もう目を覚ませ!お願いだ、嫌だっ!」 「何言ってるんだ?大人しく俺に抱かれろ。悪いようにはしない」  大きな手が、更にその奥の秘めたる部分に触れて来た。そこに触れていいのはロウだけなのに。 「あぁ、お前……本当にオメガなんだな。こんなにぐっしょり濡れて……ここなんて、もうトロトロじゃないか、ハァハァ……」  信じられない。発情すると俺の躰は勝手にこんなことになってしまうのか。  ロウだけじゃなく、誰でもいいのか。  そんなのは嫌だ!こんな風になし崩し的に犯されるなんて、絶対に嫌だ! 「もうやめろ!アペ……お前を嫌いになりたくない!」  俺は渾身の力を込めアペの下半身を蹴とばし、腹の底から唸るように声をあげた。 「ロウ──!俺はここだ!」  ロウ──  お前には俺の声が聴こえるはずだ。  俺は永遠にお前の番だからな。  だから、早くここに来てくれ!  俺を助けてくれ!  お前は死んでなんかいない。  ちゃんと生きている! 「ウォォーグウゥゥ!」  その時、茂みが大きく揺れ、大きな黒い塊がドバっと飛び込んできた。  黒い影が目の前を横切ったかと思うと、俺の四肢を封じ込めて一心不乱に胸に吸いつくアペの躰をドンっと遠くに跳ね飛ばした!  次の瞬間、重石を取り除かれたように俺の躰は軽くなった。

ともだちにシェアしよう!