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謝罪

「待て!トーチ、俺が悪かった。許してくれ!あんなことした俺を……お前は助けてくれたんだな……ありがとう」  正気に戻った俺は、声の限り叫んだ。だが大きな狼の背中に赤ん坊を抱きながら跨ったトーチは、もう二度と振り返らなかった。  それでも俺は叫び続けた!  どうしてもトーチに伝えたくて……  狼にそのまま喰われても仕方がないシーンだった。  いくらオメガの発情期フェロモンにあてられたからといっても、大切な幼馴染だったトーチの苦悩を、俺がこの躰で踏みにじったのだ。    この手でトーチのことを女みたいに抱こうとした。セックスしようとした。  俺に押し倒されたトーチの必死の抵抗は、すぐに封じ込める弱々しいものだった。  お前……こんなだったか。こんなに細い腰だったか。手首も細く、魅惑的な甘い匂いをプンプンさせて……  俺を誘っているのか……俺に抱かれたいのか。  なぁそうだろう?  すべての理性という理性が、ガラガラと崩れ落ちた瞬間だ。  「このまま犯してやる!抱いて楽にしてやるからな!」  だから頭に勝手に灯ったGOサインに、我を忘れ突き進んでしまった。  トーチの四肢の自由を奪い、彼が長年ひた隠しにしていた胸の白い布を切り裂き、暴き、露わにした。しかも有ろうことか、その乳首に吸い付くという暴挙にも出てしまった。  想像以上の乳の甘さと美味しさに惑わされクラクラした。そのまま誘われるかのようにトーチの下半身にも手を突っ込み、あいつの秘めたる部分に指を這わせたことも、縮こまる屹立を握ったことも、全部覚えている。  この脳が、正常な記憶としてすべてを……くそっ……許せ。許してくれ。   「トーチっ……トーチ……元気で!いつか帰って来いよ!また会えるよな!今度会った時には……俺はお前たちを受け入れるからな」  これは本音だ。    衝動的に犯そうとした俺のことを、トーチは許してくれた。殺すな!と叫んでくれた。あの狼の猛獣に八つ裂きにされてもおかしくない場面だったのに。  俺を許してくれたトーチのこと、俺が許せないはずないだろう。  じゃあ……今、お前のために俺は何が出来る?  お前の相棒の狼は何故あんな危険を冒し、俺達の集落にやってきた?  お前はもしかして両親に会いたかったのか。  ふとトーチの優しい両親のことを思い出した。  一人息子だったトーチは、両親の愛を真っすぐに受けスクスクと成長した。素直で優しく正義感溢れる性格は両親からの賜物だ。集落の中でもその爽やかな性格とすっとした容姿が注目の的だった。  きっと安否を知らせたく……それと両親が恋しくなったんじゃないか。そう思うと、俺の足はトーチの両親の元へと自然に動き出した。    一歩進む度に……  今だ喉奥にトーチの乳のとろけるようにミルキーな甘さを感じながらも、必死にトーチへの想いを断ち切ろうと努力した。  冷静になればなるほど、後悔が募り、自分の本当の心が見えてくるものだ。  俺はトーチが発情中のオメガだったから、あんなこと仕出かしたのか。  いや本当はそんなことは関係なかった。  俺は妬いていた。トーチの事がずっと好きだったのに、俺じゃなく狼と生きる道を選んだ決断に。  でももう、抗えない。お前の運命と俺の運命は相容れないものだった。ならば、応援するしかないじゃないか。  お前が救ってくれた命。  お前が残してくれた幼馴染としての立場。  せめてそれだけは守りたいよ。   ****  旅支度をしていると、トントンっとノック音が聞こえた。 「誰かしら?」 「レタル、私が出るから君は中に」  夫のサクが警戒しながら応対すると、来訪者はトカプチの一番の親友のアペだった。 「どうしたの?アペ……顔色が悪いわよ」  アペは真っ青な顔で、いきなり床に土下座した。 「どうしたの一体?そんなことしないで。トーチの目撃情報を話してくれてありがとう」 「おじさん、おばさん、本当にすいませんでした。俺、すぐに話せなくて、それに俺はさっき……」  その先を話すのを躊躇っている様子に、なんとなく事情を察した。  彼の躰からは、トカプチの甘い乳の匂いが微かにした。彼が何をして、何を後悔し、今ここで土下座しているのかを……

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