4 / 12

第4話

◇◇ 窓をすり抜け、教会の中へ入る。 いつものように、翼を畳んで窓枠へ座る。 中では、ミサと呼ばれる儀式の最中だった。 祭壇の前に立ち、黒いローブを身に纏ったジョセフが、数十人の教徒の前で祈っている。 祈っている彼は、気高く、美しい。 儀式が終わると、1人の女性がジョセフの方へ駆け寄って行く。 優しそうな笑みを讃えた、美しい女性だった。 神父様、そう呼びかけて、彼女はジョセフに親しげに話しかける。 心の中に、もやもやとした遣り場のない気持ちが湧き上がった。 別に、ジョセフとは恋仲ではない。取引上、身体の関係をもっているだけ。 俺が一方的にジョセフに恋心を寄せているだけで、ジョセフがこちらに恋心を抱いているわけではない。 むしろ、嫌われているだろうか。 (…今のままで、十分だろ) 高望みしてはいけない。 あまり望みすぎると、全てを失ってしまうかもしれないから。 そう自分に言い聞かせてみるものの、中々もやもやした気持ちは消えてくれない。 どうしようかと自分自身の気持ちを持て余していれば、下から自分を呼ぶ声が聞こえた。 視線を下にやると、ジョセフがこちらを見上げているのが目に入った。先ほどの女の人は、もうどこかへ行ってしまったようで、教会内にはジョセフ1人しかいたい。 一応辺りを見回してから、窓枠から降りる。 透き通った緑の瞳が、俺を捉えた。 「…アル」 「よお、神父様」 愛想のつもりで、にこ、っと笑いかけてみる。 しかし、ジョセフは眉を潜め、氷のような視線をこちらへ向ける。 「…何の用だ」 いつもながら、冷たい。 割り切った関係だから、と言い聞かせてみるが、少し寂しいと思ってしまう。 「何の用って、…分かってるだろう」 手を伸ばし、ジョセフの腰に腕を回す。 そのまま自分の方に引き寄せると、ふわりとかすかに甘い香りが鼻をついた。 「…ん、…香水?珍しいな、いつもつけていないのに」 「…たまに、つけたくなったんだ」 「ふうん、…いいな。あんたによく似合ってる。…俺、この匂い好きだよ」 顔を近づけ、柔らかな耳朶に唇を寄せる。 軽く食んで、ちゅうっと吸い上げるようにしてやれば、僅かにジョセフの肩が震えた。 「は、あっ…」 ジョセフの唇から、熱っぽい吐息が零れた。頰はほんのりと色づき、瞳は熱を帯び始める。 「仮にも教会で、聖職者であるあんたが(悪魔)と乱れているなんて…教徒に知られたら、どうなるんだろうな」 潤んだ瞳に、長い睫毛が影を落とす。 ジョセフは目を閉じ、ふ、っと乾いた笑いを漏らした。 「…きっと、…っ追放される、だろうな……あるいは、殺される、かも…」 「…おお、考えただけで恐ろしい。じゃあ、絶対に見つからないようにしないとな」 じ、っとこちらを見つめ上げる大きな瞳と視線がぶつかった。 どくん、と心臓が跳ねる。 ジョセフは一瞬躊躇うように瞳を揺らしてから、再度視線をこちらへ寄越す。 「…別に、お前となら……殺されてもいい」

ともだちにシェアしよう!