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第4話
◇◇
窓をすり抜け、教会の中へ入る。
いつものように、翼を畳んで窓枠へ座る。
中では、ミサと呼ばれる儀式の最中だった。
祭壇の前に立ち、黒いローブを身に纏ったジョセフが、数十人の教徒の前で祈っている。
祈っている彼は、気高く、美しい。
儀式が終わると、1人の女性がジョセフの方へ駆け寄って行く。
優しそうな笑みを讃えた、美しい女性だった。
神父様、そう呼びかけて、彼女はジョセフに親しげに話しかける。
心の中に、もやもやとした遣り場のない気持ちが湧き上がった。
別に、ジョセフとは恋仲ではない。取引上、身体の関係をもっているだけ。
俺が一方的にジョセフに恋心を寄せているだけで、ジョセフがこちらに恋心を抱いているわけではない。
むしろ、嫌われているだろうか。
(…今のままで、十分だろ)
高望みしてはいけない。
あまり望みすぎると、全てを失ってしまうかもしれないから。
そう自分に言い聞かせてみるものの、中々もやもやした気持ちは消えてくれない。
どうしようかと自分自身の気持ちを持て余していれば、下から自分を呼ぶ声が聞こえた。
視線を下にやると、ジョセフがこちらを見上げているのが目に入った。先ほどの女の人は、もうどこかへ行ってしまったようで、教会内にはジョセフ1人しかいたい。
一応辺りを見回してから、窓枠から降りる。
透き通った緑の瞳が、俺を捉えた。
「…アル」
「よお、神父様」
愛想のつもりで、にこ、っと笑いかけてみる。
しかし、ジョセフは眉を潜め、氷のような視線をこちらへ向ける。
「…何の用だ」
いつもながら、冷たい。
割り切った関係だから、と言い聞かせてみるが、少し寂しいと思ってしまう。
「何の用って、…分かってるだろう」
手を伸ばし、ジョセフの腰に腕を回す。
そのまま自分の方に引き寄せると、ふわりとかすかに甘い香りが鼻をついた。
「…ん、…香水?珍しいな、いつもつけていないのに」
「…たまに、つけたくなったんだ」
「ふうん、…いいな。あんたによく似合ってる。…俺、この匂い好きだよ」
顔を近づけ、柔らかな耳朶に唇を寄せる。
軽く食んで、ちゅうっと吸い上げるようにしてやれば、僅かにジョセフの肩が震えた。
「は、あっ…」
ジョセフの唇から、熱っぽい吐息が零れた。頰はほんのりと色づき、瞳は熱を帯び始める。
「仮にも教会で、聖職者であるあんたが俺 と乱れているなんて…教徒に知られたら、どうなるんだろうな」
潤んだ瞳に、長い睫毛が影を落とす。
ジョセフは目を閉じ、ふ、っと乾いた笑いを漏らした。
「…きっと、…っ追放される、だろうな……あるいは、殺される、かも…」
「…おお、考えただけで恐ろしい。じゃあ、絶対に見つからないようにしないとな」
じ、っとこちらを見つめ上げる大きな瞳と視線がぶつかった。
どくん、と心臓が跳ねる。
ジョセフは一瞬躊躇うように瞳を揺らしてから、再度視線をこちらへ寄越す。
「…別に、お前となら……殺されてもいい」
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