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第9話

◇◇ ーー物語は、唐突に終わりを迎えた。 もしかしたら禁忌を犯した自分に、天罰というものが下ったのかもしれない。 「…し、…神父、さま…?」 彼女の手から、書類が滑り落ちる。 その動きが、やけにはっきりと、スローモーションで見えた。 ジョセフの喉が、こくりと鳴る。 彼女は抱き合う俺達を見て、恐ろしい、というように 顔を歪めた。 「…ひ、あ、悪魔……っ」 「…違う」 そう言いながら、ジョセフははだけた服の前をただすと、立ち上がって彼女の方に向き直った。 「待ってくれ、誤解だ」 「その赤い目、ぴんと尖った耳、そして細長い尻尾、本に書いてあった特徴と同じ…。間違いない、悪魔だわ…!」 「落ち着いて!私の話を」 「もしかして、神父様はその悪魔に、憑かれているのかしら…。そう、きっとそうだわ。だって神父様が、悪魔に魂を売るなんてこと、あるはずないもの」 興奮状態にある彼女は、ジョセフの声などまるで聞こえていないようだった。 彼女はジョセフから俺へと視線を移すと、目線を鋭くする。 「この、外道!優しい神父様を騙して取り憑くなんて……なんてズル賢い奴なの!」 何も、言う事が出来なかった。 騙したわけではないけれど、弱っている所に漬け込んで、神父であるジョセフに取引を持ちかけたのは、自分なのだから。 「待っていて下さい、今チェスター様を呼んで参ります!あの方ならきっと、この悪魔を退治してくれるはずだわ‼︎」 「っ、駄目だ、行くな!待ってくれ…!」 彼女は制止の声も聞かず、弾丸のように教会を飛び出して行った。 ジョセフはその後ろ姿を見つめていたかと思うと、やがてふらふらと力なくその場に崩れ落ちた。 「ああ、…もう、おしまいだ」 「…ジョセフ」 その傍にしゃがみ込み、ジョセフの顔を覗き込む。 ジョセフは前髪を掴み、悔やむようにぎゅうっと目を瞑っている。 ふ、と自嘲し、天を仰ぐ。 ーーああ、神様。 これがもし天罰ならば、自分だけに与えて下されば良かったのに。 どうしてこの人まで、巻き込んだのですか。 「……大丈夫だ、あんたはまだ、戻れる」 いや、戻さなければいけない。 右手に、意識を集中させる。 じっと見つめていると、ふわりと金色の光が現れる。 それは段々と何かを形作っていき、やがて小ぶりなナイフへと形を変えた。 「…このナイフで、俺を殺せ」 ジョセフの手を取り、たった今作り出したばかりのナイフを、その手に握らせる。 ジョセフは状況が呑み込めていないようで、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。 「これで、俺の心臓を一突きしてくれればいい。そうすれば俺は、消滅する」 「……っなにを、言ってる…」 「彼女の言った通り、俺に憑かれていたということにすればいい。そうすればお前はまた、今まで通り神父の職に戻れる」 ジョセフの瞳が、見開かれる。 驚くのも、無理はない。けれどこうするより他に、ジョセフを助ける方法はない。 「俺の勝手に巻き込んで、すまないと思ってる。だから…」 「ーーお前はもっと、賢いと思っていた」 突如、ジョセフは手に持っていたナイフを、床に投げつけた。 衝撃で、ナイフは遠くの床まで弾き飛んで行く。 わけが分からなくて呆然としていれば、ジョセフの手に服の襟を掴まれた。 涙の滲んだ瞳に見つめられ、どくんと心臓が跳ねる。 「ッ好きでなければ、悪魔(お前)などとっくに切り捨てている…!」 は、っと息を呑んだ俺の前で、深い緑の瞳から、涙が一粒零れ落ちた。 「いけないと分かっていた。赦されないと分かっていた。…それでもこの関係を断つことが出来なかったのは、お前に惹かれている自分がいることに、気付いていたからだ」 ジョセフの手が、背中に触れる。 そのまま苦しいほどに強く抱き寄せられて、胸がぎゅっと締め付けられる。 「…後悔してる、…あの時、お前と取引などしなければ、…っこんなに、好きになることもなかったのに……」 「…ジョセフ…」 こんな告白は、酷すぎる。 離そうと決めた手を、離せなくなる。 この人を、諦めきれなくなる。

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