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③
「えっ……?」
一瞬何が起こったのか分からなかった。視界がぐるっと回り、俺はいつの間にかベッドに横たわっていた。和馬は俺の眼鏡を抜き取ると両手を押さえつけ、腿の間に片膝を割って入れた。そこには雰囲気も表情も変わった、俺の知らない男 がいた。
「大好きな人がさ、雰囲気だけは一丁前の子供みたいなキスを自分からしてくれてさ、……我慢できるわけないよね?」
「お、……えっ?」
唇が触れる。だけど、さっき俺からしたキスとは違った。触れた唇から舌が割って入ってくる。
「んっ……!」
噛み付かれるような激しいキス。舌を絡め取られ、上顎をなぞられる。首筋に回った和馬の手が、下から上へと撫で俺の耳朶を弄る。背筋がゾクゾクした。口内を舌で犯されているような感覚。
ヤバい、なんだこれ……!
知らない快感に下半身が疼く。股の間にある和馬の膝がそこを刺激してくるから、俺が勃起しかけていることに気付いているのだろう。
口を塞がれ鼻にかかる喘ぎ声が体内で反響する。
めちゃくちゃ気持ちいい……!
和馬の唇が離れると絡み合った唾液が糸を引いた。激しい口付けに息が上がる。
「エロい顔しちゃって。そんなに良かった? 俺のキス」
親指で下唇を拭われる。全身が熱い。俺、今どんな顔してるんだ……。
「爽太、『こうやってキスするんだよ』」
俺の上で、ドヤ顔で、俺のさっきの言葉に重ねて言い放った奴の態度でようやく気付いた。
こいつ、どこから仕組んでたんだ!?
最初から全部、こいつの、和馬の思い通りだったってわけか!
「……謀ったな」
羞恥心から思わず目に涙が溜まる。
「可愛かったよ?」
「ちくしょう……!」
ポロポロと涙がこぼれる。こいつの思惑にまんまとハマった悔しい思いと、何も知らずに起こした自分の行動の恥ずかしさから、涙が止まらなかった。
「爽太、約束通り俺と付き合ってよ」
これに関しては俺の完敗だ。自分から言い出した約束を破るつもりもない。というより、先に自分からキスした時点で答えはもう決まっていたのかもしれない。
「分かった! お前の勝ちだよ!」
止まらない涙を両手で拭いながら言う。しかしその手を取られまたベッドに留められてしまう。
「ちゃんと言って?」
ニヤニヤとした顔がムカつく。
「お、お前と、つ、……付き合うよ」
屈辱的だったが、心の中にあるのは羞恥心だけで、嫌な気持ちはひとつもない。が、やはりものすごく屈辱なので言い方はぶっきらぼうになってしまう。
「ん~~~! そゆとこも好き!!」
和馬は満足そうな笑みを浮かべ、チュッと音を立てて額に唇を落とした。
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