6 / 7

勝手に察するな

 下の階から物音がした。壁にかけられた時計を見ると7時を過ぎていた。智紀さんが帰ってきたのかもしれない。階段を登ってくる足音が聞こえたため、和馬も俺も慌てて起き上がって身なりを整え、何事も無かったようにジュースとポテチを摘む。  部屋のドアがノックされた。返事をするとそこには、今朝とは打って変わって身綺麗になった親父がいた。 「なんだ、お前らいたのか。気配がないから帰ってきてねぇのかと思った」 「なんだよ。てか、そっちこそ急に小綺麗になっちゃって、どうしたのさ」 「……」  親父がじっと俺を見る。なんだ、なんか変か? 「……な、なんだよ」 「いいや、別に?」  そう言い残して書斎に行ってしまった。 「あちゃー」  和馬が“やっちまった”といったリアクションを取ったので気にかかった。 「お前まで何なんだよ」 「……乱れたベッド、お前に好意を寄せる俺、そんでもって泣いた痕跡(あと)の残る息子の顔。オジさん、気付いちゃったと思うよ。たぶん、若干誤解して」  考えを巡らし一つの結論が出ると顔が焼けるように熱くなった。並べられた現状を組み立てると、確かに親父が事後だと思っても仕方がない状況だ。  急いで部屋を出て親父の書斎の前に来ると、勢いで壁に当たるほど思い切りドアを開けた。 「うおっ! びっくりした!」  顔を赤くしたまま叫んだ。 「ご、誤解だから!! 俺らヤってないから!!」 「……ほう?」  親父がニヤけた顔でこちらを見る。なんだ、その反応は。思ってたものと違うぞ。  後を付いてきた和馬が俺の肩にポンッと手を乗せた。和馬の顔を見ると哀れみの表情を浮かべていた。 「お前、墓穴掘っちゃったな……」 「えっ……?」  自分の言葉を思い返してみる。そして掘った墓穴に気付いた。 「うわぁぁぁ!!」  いたたまれない気持ちになって、叫びながら階段を降りた。羞恥心マックスでソファーの上にうずくまると、行き場のないこの気持ちを、ソファーの上に座らされた大きなテディベアにぶつけた。

ともだちにシェアしよう!