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第2話

「岡(おか)さんって、いつもお店にいますよね。いつ休んでるんですか」 「バイトさんやパートさんが来てくれるときかな」  奇特な『アルファ』の名前は、神野 琥太朗(かみの こたろう)くんという。大学2年生だそうだが、今は夏休み中で、更には、前期の内に必要な単位のほとんどを取得したため、秋からも時間にゆとりがあり、バイトを続けてくれるという、奇跡のような優良物件だ。ありがとう、ありがとう。 「俺、今日1日働きますよ? 休めないんですか」 「ありがとう。けど、バイトさんを1人にはできないので、休めません」 「……、え、このお店の社員さんって岡さんだけですよね」 「そうだね」  こういう世界もあるんだよ、『アルファ』くん。いい社会勉強になるね。さすがに、たまに、近くの大きな店舗とか、本部から社員さんが派遣されてくることがある。そのときが、俺のお休みだ。 「岡さん、痩せすぎだし、目の下隈酷いし、心配です」  神野くんは、俺の腕の方をじぃと見下ろし、首を傾げた。制服のサイズが合わなくなってしまって、分厚く腕まくりをしていることが気になったのだろう。   神野くんは、俺より3つ程下なだけなのに、高さも厚さも俺よりしっかりしている。恥ずかしくなって、折っていた袖をいくつか伸ばした。やっぱり邪魔だったのでまた伸ばす。何やってるんだろう、俺。 「神野くんは、あれだよね。モテるよね、絶対」 「別にモテませんよ。岡さんにがそう思ってくれるのは嬉しいですけど」 「はは、あ、ほら、配送来たから、受けてくれる? 俺、中の準備するから」  『アルファ』といえば、その能力故に、傲慢でプライドが高い嫌な奴ばかりだと思っていたけど、神野くんは違った。普通に優しい。あと、普通に、やっぱり、仕事の覚えが早いし、要領もいい。本当にどうしてこんなところでバイトをしているのか。別に時給もよくないのに。この優良物件め。  神野くんが、店の裏口から配送を受けてくれている間、俺は、生クリームやらイチゴ、ミントの葉なんかを準備する。店の中の、ガラスで仕切られた一画が、簡易的な厨房になっていて、大きなオーブンや、レンジに、水道、簡単な調理器具なんかが置いてある。外からは丸見えだけど、接客が苦手な俺にはありがたい、静かな1人だけの空間だ。  チェーン店だけど、ケーキの簡単な飾りや既に焼くだけの状態で運ばれてきたパイなんかはここで仕上げたりする。この作業が、俺は好きだ。 「店長、こっち準備できました。まだ、開店まで時間あるんで、俺も中入りますよ」 「あ、ありがとう」  本当に、『アルファ』は気が利く。  真っ白なショートケーキに、生クリームやイチゴを乗せる。その隣で、神野くんが、つや出しのための暖めた寒天をイチゴに塗ってくれた。ケーキをカットしたら、側面にフィルムを巻いて、アルミの土台に乗せ、ガラスケースへ。パイ生地はオーブンに入れて、タイマーをセット。 「時間だ。ありがとう。前、開けてもらっていい?」 「はい」  厨房から神野くんが出て行く。また、静かになった。ふと手を止め、前を眺める。大きなゴールデンレトリバーみたいだ。大きくて賢くて優しくて。制服――といっても、白いシャツに黒いズボン、それに赤いショートエプロンてだけだけど――もよく似合っている。おかげで、女性のお客様が増えている気がする。今月の売り上げは少しよさそうだ。 「いらっしゃいませ」  前は、こんな朝一番からお客さんなんて来なかったのに、今は、開店前から、パラパラ並んでいるお客さんがいる。そして、俺だけだと、露骨にがっかりされ、申し訳なく思う。  だから、というわけではないけど、神野くんがいるときは、俺は、ここや裏側に籠もって、神野くんに接客を任せている。その間に、チョコや生クリームなんかでちょっと凝った飾りをしてみたり、溜っている事務作業をすることができて、本当に助かっている。 「イケメン」  軽く笑って小さく呟いても、ここなら誰にも聞こえない。  『アルファ』とか『オメガ』は俺とは別世界の住人なんだから。そう何度も言い聞かせながら手を動かした。

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