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第5話

用意されたセーラー服はうちの学校の制服だった。至って普通のセーラー服。リボンは水色。スカート丈は膝より少し上。 あぁ、俺、体毛薄くて良かった。 放課後の学校は幸いにも部活動に参加する生徒が主で、校内を歩いてる人はまばらだ。 だから、渋谷に手を引かれて歩く俺は俯きさえすれば男だってバレない...はず。ってか、バレたら今後の学校生活どうすりゃいいの。 渋谷は長い足を駆使してずんずん進むから俺はついていくのに必死で、引っ張られている手首が痛い。 「渋谷!歩くの早いっ!手も痛いよ」 我慢出来なくて、不満を口にしたらピタリと歩みを止めるから勢い余った俺は渋谷の背中にぶつかった。 「んっ...!」 「悪い。...っと、大丈夫?」 くるりと振り返り、俺の顔をのぞき込む。思わぬ急な至近距離に顔が熱くなった。 「へ、平気」 慌てて距離をとって顔を逸らそうとしたら、頬に手を添えられそれが出来なくなった。 「...ばか、やめろ」 見られているのが分かるから、どこを見ていいのか分からなくて瞳を逸らす事しか出来ない。 「...ふは。顔、真っ赤。」 渋谷にしては珍しく、何のからかいも含まない優しい声。 「だ、だいじょーぶ」 「ほんと?」 必死に頷く。もぅ、恥ずかしすぎて限界近い。くすくす笑う声が聞こえて、頬から渋谷の大きな手が離れていった。安心したのもつかの間、その大きな手は俺の手へと伸び、あろう事か指を絡ませ恋人つなぎをしてきた。 「し、渋谷」 「んー?ってか、きぃの手小さいな。体温高くて子供みてー」 「は、はぁ?渋谷の手が馬鹿でかいんだろ?」 思わず食ってかかるけど、体温高い理由なんて渋谷に触れられているからで。もちろんそれは言えないけど、いつものような軽口にちょっと気持ちが落ち着いた。 渋谷はニッコリと笑って 「よし、決めた。デートだから今日はずっと手を繋ぐわ、俺」 繋いだ両手を高く上げた。 「...はぁ?」 「決定ね」 思わぬ宣言に固まっていると、その間に渋谷は素早く靴を履き替えていた。 「ほれ、きぃの靴」 俺の分の靴まで出してくれる。 ...なんだ?渋谷って彼女に対していつもこんな甘いことしてんの?くそ。リア充ばかめ。 「どした?靴も履かせてやろうか?」 そう言ってしゃがみこもうとした渋谷に慌てて俺は自分で靴を履き替えた。 「なんだよ、こんくらいサービスしてやるのに」 「ば、ばかばかばか!」 なんだかいたたまれない気持ちになって、俺は渋谷の手を引いて歩き出す。早くこの場から去りたかった。

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