6 / 22
第6話
渋谷はさすがと言うか、エスコートが上手と言うか。最初は俯いてばっかりだった俺もいつしか素直に楽しんでいる。考えてみたら、こうして放課後に遊びに行く事も滅多にないので楽しい。...女装しておりますが。
「あ!渋谷、あれ!めっちゃ可愛い!」
クレープ食べて、ゲーセンに来て。クレーンゲームの中のキャラクターが目についた。
「きぃ、こういうの好きなの?」
渋谷も女装してる俺に変に絡むわけでもなく、普通に女の子として接している。
「うん。可愛い」
べったりクレーンゲームに引っ付いている俺の先には、小さな猫のキーホルダー。大きな黒目がちの瞳でこっちを見ている。猫好きには堪らない心くすぐるデザインだ。
「よし!俺に任せろ!」
そう言って渋谷は、本当にずっと繋いでいる手を離して自分のシャツを掴ませた。
「とりあえず、こっち。な?」
な?の意味が分かんないけど、顔が熱くなるけど素直に嬉しい。結局、3回目のチャレンジで猫のキーホルダーは俺の手元にやってきた。
「大切にしろよ?」
いつも根津がするように、渋谷が俺の頭を撫でた。渋谷に撫でられるのは初めてで、手を握られるのとはまた違った暖かさを感じて1人でニヤニヤしてしまう。
「じゃ、帰ろっか」
そんな渋谷のセリフに一気に心が沈む。
時計を見ると8時近い。いつもの帰宅より遅い時間だ。あまりにも楽しくて時間の事を忘れていた。
「きぃの最寄り駅、俺と同じ路線だ。途中まで一緒に行こ」
「...うん」
自然と俯いてしまう。まだ、帰りたくない、なんて言えない。
「きぃ?」
グッと強く手を握られて顔を上げると、優しく笑う渋谷。
「今日は楽しかった。また、遊ぼうな」
「あ、俺も。俺も楽しかった」
本心だ。渋谷とまた遊びたい。同じ時間を過ごしたい。ダメだと分かっているのに、優しい毒のようにゆっくりと俺をワガママにさせる。
「きぃの可愛い女装も見れたし。...まだお楽しみはあるしね」
にっこり笑った渋谷の笑顔は眩しかった。
ともだちにシェアしよう!