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第6話

渋谷はさすがと言うか、エスコートが上手と言うか。最初は俯いてばっかりだった俺もいつしか素直に楽しんでいる。考えてみたら、こうして放課後に遊びに行く事も滅多にないので楽しい。...女装しておりますが。 「あ!渋谷、あれ!めっちゃ可愛い!」 クレープ食べて、ゲーセンに来て。クレーンゲームの中のキャラクターが目についた。 「きぃ、こういうの好きなの?」 渋谷も女装してる俺に変に絡むわけでもなく、普通に女の子として接している。 「うん。可愛い」 べったりクレーンゲームに引っ付いている俺の先には、小さな猫のキーホルダー。大きな黒目がちの瞳でこっちを見ている。猫好きには堪らない心くすぐるデザインだ。 「よし!俺に任せろ!」 そう言って渋谷は、本当にずっと繋いでいる手を離して自分のシャツを掴ませた。 「とりあえず、こっち。な?」 な?の意味が分かんないけど、顔が熱くなるけど素直に嬉しい。結局、3回目のチャレンジで猫のキーホルダーは俺の手元にやってきた。 「大切にしろよ?」 いつも根津がするように、渋谷が俺の頭を撫でた。渋谷に撫でられるのは初めてで、手を握られるのとはまた違った暖かさを感じて1人でニヤニヤしてしまう。 「じゃ、帰ろっか」 そんな渋谷のセリフに一気に心が沈む。 時計を見ると8時近い。いつもの帰宅より遅い時間だ。あまりにも楽しくて時間の事を忘れていた。 「きぃの最寄り駅、俺と同じ路線だ。途中まで一緒に行こ」 「...うん」 自然と俯いてしまう。まだ、帰りたくない、なんて言えない。 「きぃ?」 グッと強く手を握られて顔を上げると、優しく笑う渋谷。 「今日は楽しかった。また、遊ぼうな」 「あ、俺も。俺も楽しかった」 本心だ。渋谷とまた遊びたい。同じ時間を過ごしたい。ダメだと分かっているのに、優しい毒のようにゆっくりと俺をワガママにさせる。 「きぃの可愛い女装も見れたし。...まだお楽しみはあるしね」 にっこり笑った渋谷の笑顔は眩しかった。

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