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第12話
不意に歩みが止まった。
目を覆っていた手のひらが離れていく。
「すみませんでしたぁっ!!!!」
ゆっくり目を開けた俺の視界に入ってきたのは、人の頭だった。
「...へ?」
呆気に取られ、状況が理解できないまま辺りを見渡すとホームの端っこの方に居て、周りに人はほとんど居ない。
降りたことのない駅で、見覚えのない場所だった。
目の前の男の頭を見る。
...あれ?もしかして...
こちらにツムジを見せる男の頭をじっと見る。
まさか。まさか。...まさか。
どことなく見覚えのある男の、まさかの正体に心拍数は上がっていく。
「...渋、谷?」
かすれた声で名前を言うと、弾かれたように顔を上げ...今にも泣きそうな、困った顔をした渋谷がいた。
「...な、んで...?」
じゃあ、俺に痴漢していたのは...渋谷?
女装させて、デートだなんて甘い事言って...俺をからかっていたの?
ポロリと見開いた大きな瞳から涙が零れた。
「...っ!!ご、ごめん、ごめん、きぃ、ごめん!!」
泣き出した俺に、渋谷は苦しそうに顔を歪めて俺に触れようとした。
「やっ...触んなっ!!」
その手を払い除け、渋谷を睨む。
悲しいのと、悔しいのと、訳が分かんないのとで頭がいっぱいで涙は止まらない。
「...きぃ」
涙は止まらないし、渋谷を睨むことも止めない。
泣きそうな渋谷。
泣いている俺。
なんだ、これ。
「...きぃ、俺、あの、」
渋谷が1歩、俺に近づく。
それだけで、いつもはもっと近い距離にいたのに、それだけで体がすくんだ。
「...なん、だよ、...」
怖くて、自分の体を抱きしめながらも口からは強がりな言葉が出てくる。
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