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第6話
「雨の日は嫌いだな……」
遊びにしては、彼のことを好きになり過ぎた。
彼に抱かれることは好きだ。この関係が終わらなければいいのにとさえ思う。
だけど、やっぱり苦しいんだ。本当に欲しいと思っている彼の心が手に入らないのは。
最初から分かっていたはずなのに「雨の日限定」という条件のもと同意で始めたことのはずなのに。
桐谷さんに触れるたび、抱かれるたびもっともっとと欲張りになる。このまま彼のすべてを独占できればいいのに──と。
「どうして? なんで雨の日が嫌いなの」
桐谷さんが訊ねる。本当に雨の日が嫌いなのは、きっと桐谷さんのほうだってことに気付いたのはずっと前。
「……泣きたくなるから」
「じゃあ、もっと泣かしてあげようか?」
「意地悪言うなよ」
「意地悪じゃないよ。可愛がってるだけなのに。彬文の泣きそうな顔、すごくそそるよ。堪らなくゾクゾクする……」
桐谷さんは、狡い。俺のことを好きでもないくせに、時々甘い言葉を吐いて、俺の心を絡め取ろうとする。
こんなの、愛でも恋でもない。
頭では分かっているのに、身体に与えられる温もりや快感は確かに実体を伴った本物の感覚で。その感覚を愛だと勘違いしそうになる。
限界だった──。
「ねぇ、桐谷さん」
「ん?」
「もう……やめにしようか、こういうの」
苦しい、苦しい、苦しい。苦しくてどうにかなってしまいそうだった。
決して俺のものにはならない、俺を愛してはくれない人をただひたすら想い続けるのは。
俺の身体から桐谷さんが離れた。たったいま抱き合って、汗にまみれるほど熱くなった身体から、すっとその熱が消えていく。
「……シャワー浴びてくる」
彼が静かに身体を起こし、そのまま黙って風呂場に向かった。
「……っ」
言ってしまった。
たとえ、彼が自分のものにならなくても、こうして時折抱き合えるだけでいいと──傍にいられる時間があるだけでいいと思っていたはずなのに。
シャワーを浴びて戻って来た彼は、黙ったまま身支度を整えると俺のところに戻って来た。
桐谷さんがベッドの縁に膝を付いた瞬間ふわりとシャンプーの香りがして、何も言わずそっと俺の髪に触れた。
冗談だよ、そう言えばもしかしたら何事もなかったように元に戻れるのかもしれない。けれど、元に戻ったところで所詮は同じことを繰り返すだけ。
どんなに愛しても、愛されることはない。永遠にこの胸の痛みから解放されることはない。
「……バイバイ、彬文」
そう言った桐谷さんが、俺の髪から手を離した。
たった一言。たったそれだけの言葉を残して桐谷さんは静かに部屋を出て行った。
どうして終わりにしたいのか、その理由さえ聞かれなかった。俺は何を期待していたのだろう。
終わりにしたいと言えば、彼が自分を引き留めるとでも思ったのか。
バカみたいだ──桐谷さんにとって俺なんていとも簡単に切り捨てられるものだったということを思い知る。
ポタ、ポタポタッ……頬を伝った涙がシーツに連なった染みを作る。
「……う……うっ、」
抑えていた嗚咽が漏れると同時に、次から次へと溢れるように涙が零れた。
俺は、泣いた。身体中の水分がすべてなくなってしまうんじゃないかと思えるほど。
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