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東雲獅琉、関東を仕切る東雲組の若頭であり、次期組長候補。
当時22歳だった彼は、部下の柚木康平(ユズキコウヘイ)を連れて借金の取立てをしていた。
本当なら若頭が直々に行ったりすることはないのだが、たまたまこの日は暇を持て余していて、事務所を出ようとしている柚木に声をかけ、一緒に行くことになった。
今になって、あの時どうしてそんな気になったのか、あれは偶然ではなく必然だったのかもしれないと獅琉は柄にも無く思ったりもする。
「若、到着しました。」
柚木の運転で着いたのは古びたアパート。
もう春だというのに、まるで廃墟のように草木も全て枯れてしまっている。
「なんだここ...こんなとこに人住んでんのか?」
獅琉の言葉に柚木は苦笑しながら答える。
「そうなんですよ、厄介なのが1人。」
「へぇ...もう随分と返せてないみたいだな。」
「はい。半年くらいでしょうか。しかも返せない理由が理由ですからね。そろそろこっちも待てないんで、今日払えないようならそれなりの手段に出ようかと思ってますが...」
東雲組では違法な金利で金を貸したりしないし、違法な取立てもしない、というのがルールだ。
しかし、あくまでそれは返済期限を守った場合であって、守れなかった場合はその限りではない。一体どんな人間がここに住んでいるのだろう。
「へぇ...大変だな」
着いてきたものの手伝う気は更々ないらしい獅琉の返事はおざなりだ。
二人は車から降りてアパートに向かう。
一階の一番端の部屋が目的の部屋らしく、柚木はインターホンを鳴らす。
中から物音は一切聞こえず、人が出てくる気配もない。
2度、3度と柚木がインターホンを押すが同じ。
「留守か?」
獅琉が呟くと柚木が困ったように答える。
「いえ、いつもなんですよ。居留守ってやつですね。」
柚木は獅琉を見て、「ちょっと失礼します」と言ったあと、大声で叫んだ。
「おい!!!!いるんだろ!!!出て来い!!!!今日こそきっちり返せるんだろうな!?!?」
おい。
まんまドラマに出てくるヤクザの台詞じゃねーか。
内心そうツッコミながらぼんやりその光景を見ていると、3度目に柚木が怒鳴ったところでガチャリとドアが開き、中からふらりと人が出てきた。
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