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柚木の車に戻った獅琉は腕の中で、瞼を閉じたままじっと動かない赤ん坊を見つめる。
ほんとに生きてんのか?赤ん坊ってもっと泣くもんじゃねーのか?
確かめるように顔を近づけてみると、柚木の言う通り確かに息はしているようだ。
はぁーっと深いため息をついて赤ん坊を抱え直す。
真っ白な肌に真っ白な髪。天使のような顔で目を閉じている赤ん坊は、獅琉自身目にするのは初めてだが、恐らくアルビノと呼ばれる個体だろう。
どうしたもんか...
それから15分程して、柚木が戻ってきた。
後部座席のドアを開けて赤ん坊の顔を覗き込み、眉を寄せる。
「若、その子の様子どうですか。」
「どーもこーも...微動だにしねーよ。」
「チッ...あの女...
その子、病院に連れていきますか?」
「ああ、そうしてくれ。後のことは病院の奴らに任せろ。」
「わかりました。すぐ向かいます。」
「いや...いい。運転は俺が代わる。」
獅琉は今にも消えてしまいそうな命の赤ん坊をこれ以上抱いている自信がなかった。
俺の汚れた手で、こんなに綺麗なもんは抱けねーな...
「分かりました。赤ん坊、預かりますね。」
頷いて、そのまま赤ん坊を渡そうとするが、柚木は赤ん坊が獅琉の服を掴んでいることに気づいた。
「その子...若の服掴んでますね。かなり衰弱してる筈なのに...若が助けてくれたって分かってるんですかね?」
柚木に言われて赤ん坊を見下ろすと、確かに小さな白い手が獅琉の服を握り締めている。
その手を離させようとするが、赤ん坊の力は意外と強く、これ以上力を入れると骨が折れてしまうのではないかと気になって、力づくで離すこともできない。
「こいつ...どこにこんな力残ってんだよ...」
「俺には、その子が若から離れたくないって必死になってるように見えますよ。」
再び赤ん坊を見下ろす獅琉。
今まで人を傷付けることしか出来なかった手で小さな命を抱いている獅琉。
今、俺が手を離してしまったらこいつはどうなるんだろうか。
どこか施設へ送られ、誰に愛されるわけでもなく独りぼっちで生きていくのだろうか。
東雲組に連れて帰ることも、そこで育てることも出来ない事ではない。
そうすることが出来ないのは、ただ怖いからだ。この綺麗な赤ん坊を汚してしまうのが。
でも、こいつが俺と離れたくないって言うのなら...
「お前...俺と離れたくないのか?」
返事をするように赤ん坊の瞼がぴくりと動いた気がした。
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