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獅琉は眠っている麗の顔を静かに見つめていた。規則正しい寝息に合わせて上下する麗の胸を確認して、小さく息を吐く。頬の上でまだ乾き切っていない涙を親指で拭ってやれば、擽ったいのか麗が少し身動ぎをした。 時々、獅琉は眠っている麗を見ていると怖くなる。 麗は本当に眠っているだけなのだろうか、と。 丈夫な自分とは全く違い、細く弱い麗の身体。 以前、麗が酷い風邪をひいてしまった時は、肺炎になりかけて呼吸をするのも辛そうだった。高熱を出してひゅうひゅうと肺を鳴らして息をするその姿を見ているだけで、麗の呼吸が止まるのではないか、麗が居なくなってしまうのではないかと底知れない恐怖に襲われた。 麗がいない世界。 そこは一体どんな景色だろうか。 獅琉には想像できないし、したくもない世界だ。麗と出会っていなかった頃の暮らしなど、とうの昔に忘れてしまった。 最初から獅琉にとって麗は、ただのペットなどではない。 こんな仕事をしているが、いつだって麗を一番に優先してきた。 麗が身長だけではなく、精神的にも幼いままなのは獅琉がそういう風に育ててきたからだ。 麗の世界に俺以外の人間はいらない。麗が生きていく為に必要な人間は、俺だけだとあの日からずっと刷り込むように育てた。 しかし、毎日毎日獅琉を求めて泣き、片時も離れたくないと獅琉を追いかける麗の姿を見ていると、どうしようもなく苦しくなるのだ。 麗に対する愛情が歪み始めたのはいつからだったか、麗が初めて獅琉の名前を呼んだ時からかもしれないし、初めて獅琉に笑顔を見せた時だったかもしれない。 あるいは、最初から歪んでいたのかもしれないが。 日に日に美しく成長していく麗。雪のように白く陶器のように滑らかな肌も、ルビーのように紅く光る瞳も、全てを自分のものにして籠の中でどろどろに甘やかして最期の瞬間まで傍にいたい。 俺はいつまで麗の"保護者"でいられるんだろうな... いつか無理矢理にでも犯しかねねーな... お前が俺の本性を知ったら、嫌われんのかな? ごめんな、麗。 お前を拾ったのがもっとまともで優しい人間だったなら、今頃お前はたくさんの人と出会って幸せに暮らしてたかもしれないのにな... ────────穏やかな寝顔をしている麗の頬にひとつ、口づけを落として、獅琉は「愛してるよ、麗」と囁いた。

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