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5-1side麗
お風呂から上がっても、麗はついさっきの出来事を思い出してぼんやりしていた。
しーがぼくの耳...たべちゃった...
ふかふかのカーペットの上にぺたんと座って自分の耳を触っていると後から上がってきた獅琉に声をかけられる。
「麗、ちゃんと服着ろばか。髪の毛も乾かしてねーだろ風邪引くぞ。前に酷い目に遭ったの忘れたのか?」
呆れながらそう言う獅琉。下着姿だった麗はそのまま黒いシャツを着せられ、頭にはタオルを被せられた。
「ふぁ...」
息を吸い込むと、大好きな香りに包まれる。
しーのにおい...ぼくすき...
獅琉がドライヤーを取りに行っている間、タオルに埋もれてシャツの匂いをくんくんとかいでいると、“部屋の外”に繋がるドアがガチャリと開き、元気な声が聞こえてきた。
「若!麗さん、おはようございます。ご飯持ってきました。テーブルの上に置いておきますねー」
このこえ、ユズだ!
普段獅琉がいない間麗の世話をしている柚木の声を聞いた麗は、タオルに埋もれたまま返事をした。
「ユズっ...おはよ、ぅ...」
「ん?麗さん?どこですか?」
柚木が不思議そうに近づくいてくる足音が聞こえる。
「ユズ...ぼく、ここ...」
「麗さん?もしかしてこの中ですか?」
バスタオルを捲られて、驚いたように目を丸くした柚木と目が合った。
「う...?」
突然広くなった視界にぽかんとしている麗を見て柚木は楽しそうに笑う。
「ははっ...麗さんを拾った日みたいですね、あの時も麗さんバスタオルに埋もれてました。」
「そうなの...?」
自分が拾われた子どもであることは知っていたが、獅琉からその日の事を聞いたことは一度もない。麗は興味津々で柚木の話に耳を傾けた。
「そうですよ。若が麗さんのこと見つけて、呼ばれて慌てて駆けつけたらちっちゃくて可愛い赤ん坊がいるんですもんびっくりでしたよ。でもそれよりびっくりなのはあの若が麗さんを...いった!」
「喋りすぎだ阿呆、麗に余計なこと吹き込むんじゃねえ。」
「しー!」
「若!叩くことないじゃないですかー!」
ドライヤーを持って現れた獅琉に頭を叩かれた柚木は、涙目で訴えた。
「あ?お前が余計なこと言うからだろ。麗、髪の毛乾かすからこっち来い。」
「はぁい」
獅琉に呼ばれて麗は立ち上がろうとするが、バスタオルに足が絡まって躓いてしまった。ぐらりと傾く体。
「あぅっ...」
「おい麗!」
「麗さんっ!!」
後少しでフローリングに床に激突する...というところでれの体が宙に浮いた。咄嗟に手を伸ばしてくれた柚木のお陰で転ばずに済んだらしい。けれど、あまりに吃驚して声が出ない。
「麗さん?大丈夫ですか?どこか打ちましたか?」
柚木の声にも、体が反応しない。
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