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5-3side獅琉
「いや...なんでも、ない...です...」
「ああ?」
「いや、ほんとに大丈夫です!!」
「...」
麗とこちらを交互に見て、慌ただしく首を振る柚木。
その様子に、どうせ録なことを考えていないと目を細めた。
獅琉の冷たい視線を受けた柚木は、顔を青くして更に首を振る。
「そ、そんな睨まないでくださいよ!ちょっと、なんていうか...その...れ、麗さんの耳が気になって...あの、」
「耳だぁ?」
柚木に言われてお粥に夢中になっている麗の耳を見ると、先程獅琉がつけた噛み跡が見えた。白い肌に、はっきりと残っている赤い歯形。髪の隙間からちらちらと覗くそれは、幼気な麗の雰囲気から酷く浮いて見えた。
「あー...」
そういえばさっき噛んだんだった...
「いや、これは...」
まさか麗に欲情したなんて言えるはずもない。
どう言い逃れしたものかと口ごもっていると、柚木が口元に手を当ててわなわなと震え出した。
「まさか、もう...」
「は?」
「とうとうヤっちゃったんですか!?」
「とうとうってなんだよ!しかも声でけーよ殺すぞ!」
突拍子もないことを言い出した部下に、思わず言葉が荒くなってしまう。慌てて麗を確認したが、麗の全ての関心はまだ目の前のお粥にあるようで、ホッと胸を撫で下ろした。
柚木も流石にまずいと思ったのか、両手で口元を覆って麗を見る。それから、ゆっくり視線をこちらに戻して首を傾げた。
「いや、でも…だって...若、麗さんのこと好きです...よね?」
「あ?...好きってどういう、」
「そりゃあ、恋愛対象としてですよ。」
「...お前な、」
「ふざけるのも大概にしろ」と言いかけて、止めた。
柚木の言葉を否定することに、大きな違和感を感じたから。
いや、違うな。
本当は自分でも分かってる。今日みたいに抑えが効かなくなる日は、日毎増えていってる。
麗が、好き...か...
こんな気持ち、麗が知ったらどう思うんだろうな。
汚い大人だって軽蔑されるか。
まあそれも、間違っちゃいねえ。俺みたいな人間が恋だの愛だの言うこと自体、おかしな話なんだから。
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