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「若?」
眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった獅琉を、柚木は不思議そうに覗き込む。
「麗さんのこと好きだと思ってたんですが...違いましたか?」
「いや...柚木...」
「麗さんは若のこと、」
「柚木!もういいこの話は...やめろ。」
獅琉は柚木の言葉を遮って俯いた。
こんな気持ち、ガキの麗には届かねえし、何より知らずに生きていってほしい。
俺はあの日、麗を守るって誓ったんだ。
傷付けるわけにはいかない、何があっても。
麗は、知らない方がいい。俺なんかの歪んだ愛を押し付けたらきっと麗は壊れてしまうから。
麗の幸せのためなら俺の気持ちの一つや二つ閉じこめたって構わないんだ。
「...っ若も食事とってくださいね。終わった頃に食器だけ、取りに来ます。」
柚木は不満そうに獅琉を見ていたが、やがて諦めたようにそう言って部屋から出ていった。
柚木の背中を見送ってから、獅琉は深く溜息を吐いて麗を見る。
麗のお粥はまだまだ茶碗に沢山残っていた。
「麗、そんなにちまちま食べてたら日が暮れるぞ。」
麗の向かいの椅子に座りながらそう言うと、麗はぴょこりと顔を上げる。
「んぅ...おかゆおいしい...」
「ああ、後で柚木に礼言っとけよ。」
「はい。でも、ぼく...」
「ん?」
「も、おなかいっぱい...」
「あ?まだ全然食ってねーだろ。」
「ぅ...」
「俺も今から飯食うから。お前もちゃんと食べろ。」
「はぁい...」
しばらくは獅琉と話しながらお粥を食べていた麗だが、3分の1程を食べ終えたところで完全にその手が止まってしまった。
「麗?もういいのか?」
「ん...ごめんなさい...」
申し訳なさそうに赤い目が見つめてくる。
完食は無理か...でも、こいつにしては頑張った方かな。
「いいよ、俺はもう食い終わったし。食器片付けるから先に向こう行ってろ。」
「うん。」
素直に頷いてぽてぽてとソファーの方へ向かっていく麗を気にしつつ、食器を片付けて柚木が回収しやすいように部屋のドアの近くに置く。
そのあとテーブルの上もきれいに拭いてから麗のいる方へ近づくと、ソファーの影から麗の真っ白な足が見えた。
またあいつあんな影に...ちゃんとソファーに座れっていつも言ってるのに。
後ろから近づいて麗を抱き上げようと手を伸ばすが、麗が何やら小さな声で話しているのに気付き、その手を止める。
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