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どうやら麗はお気に入りの大きなうさぎのぬいぐるみを抱きしめて、話しかけているようだ。
何喋ってんだ...?
麗の声を聞こうとすぐ後ろまで近づく。おっとりとしている麗はそのことに全く気づかない。
「うんっ...うーちゃん...」
“うーちゃん”とぬいぐるみに呼びかけている麗。
うーちゃん?このうさぎのことか?
「きょうは、ごはん...ちゃんとたべたよっ、それにね...、」
まさかこいついつもこのぬいぐるみに話しかけてたのか...?
麗らしいっつーかなんつーか...
獅琉は息を潜めて、その独り言を聞いていた。
「あのねっ、しーがおしごと、おやすみなんだって...ふふっ...うん、なにしてあそぼうかなぁ...うーちゃんはなにが、いいとおもう??」
麗の肩が嬉しそうに揺れている。顔は見えないがきっとにこにこと嬉しそうに笑っている。
あまりに可愛すぎる麗の独り言。獅琉は思わず麗を後ろから抱きしめた。
「にぁ…っ」
麗はつぶれた猫のような声を出して驚いている。
嬉しい筈なのに、どうしてこんなにも苦しい?
「麗」
「...っ、しー?」
「お前いつもそのぬいぐるみに話しかけてんの?」
「ぅ...うーちゃん...おともだち...」
「そうか」
麗の世界にいる人間は俺と柚木と山瀬と…あと数人だけだもんな...
この部屋から出して、広い世界を見せてあげた方が麗は幸せだ。
でもきっと麗は綺麗な世界を見たら、この部屋には帰ってこない。
自分が如何に汚れた人間と暮らしていたことか知ったら...
俺の存在なんかすぐに麗の中から消えてしまう。
俺はこんなにも...もう...麗がいない世界なんて考えられないのに...
「しー?」
ぐるぐると考え込んでいた獅琉は麗の声にはっとして顔を上げる。
いつの間にか腕の中で振り返っていた麗の真っ赤な目が心配そうに見つめてくる。
「どうしたの?」
「いや大丈夫だ...。…麗、聞きたいことがある。正直に答えろ。」
「なぁに?」
こてんと首を傾げる麗。
本当は可愛い可愛いお前を誰にも見せたくない。一生囲って俺だけが愛し続けていたい。
でも、麗、お前が望むなら...
「麗、外に出たいか?」
「...ぇ...」
「俺から離れて、自由に暮らしたくないか?」
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