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6-1side獅琉
麗を抱き上げ、ベッドに寝かせてから山瀬に電話をかけようとして服を掴まれていることに気付いた。
離そうとしても強い力で握られている手は離れない。
あの日と同じだ。
あの時の麗は死にかけていて、俺に縋るしかなかった。俺があの場で見捨てていれば、生まれていたことすら誰にも知られずに確実に死んでいた。
じゃあ、今は?
今は無条件で麗を助けてくれる人が周りにちゃんといる。
それでも麗が毎日俺を待っていて、今麗が俺を離さないのは...?
「は、くだらね...」
こんなのただの刷り込みだ。初めて見た人間が俺で、たまたま保護したのも俺だっただけ。
溜息を1つ吐いた獅琉は麗の手を離すのを諦めてポケットからスマホを取り出し、発信ボタンを押した。
発信相手は山瀬。
プルルルル...プルルルル...
5コール目で出た彼はいつも通りのちゃらんぽらんだ。
「はーい、もしもしー山瀬だよ~。何かあった~?」
「麗が過呼吸になった。今は落ち着いてるけど看てやってくれ。」
「はぁ?点滴したばっかりなのに~?しかも過呼吸ってまさか泣かせたんじゃ...まぁいいや、すぐ行く。」
「頼んだ。」
電話を切って麗の柔らかい髪を撫でながら山瀬を待つ。涙の跡が残る寝顔を見るのは何度目だろうか。
「お前を幸せにしてやりたいのにな...泣かせたいわけじゃねーのに...」
やっぱり俺の汚れきったこの手じゃ、叶わないのか。
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