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お互いに立ち上がったままで睨み合っていると、山瀬が深い溜息を吐いた。呆れているようにも見えるその態度に、獅琉の中で更に苛立ちが募っていく。
「つーか...お前の話の中に一つも麗くんの意思が見えてこねーんだけど」
「麗は...俺といたいって言うだろ。」
「じゃあそれが麗くんの意思で、幸せなんじゃねーの?」
「それは麗の中には俺しかいないからで…っ」
「うん、だってそう育てたのはお前だろ?」
「だから…!それが可哀想だから麗を自由にしてやるって言ってんだろ。」
「お前それ...無責任すぎるだろ」
「あ?」
「お前が麗くんをお前無しで生きていけなくしたくせに逃げんのかよ?麗くんが幸せとか幸せじゃないとか言ってるけど、お前は麗くんのことなんか何にも考えてない。ただ怖いだけだ。麗くんからここを出たいって言われるのが。だからそうやって先回りして、傷付く前に逃げ出すんだ。結局、テメーのことしか考えてねーんだよ。」
「...んなこと、」
“自分が傷付きたくないだけ”
はっきりそう言われて、ドキリとした自分がいた。
俺が守ってるものは、守りたいものは一体何だ。
「ぐだぐだ言ってねーで本人に聞いてみればいいだろ。お前いつも言葉が足りてねーんだよ」
「けど麗が俺を必要とするのは刷り込みだって...」
「刷り込みだろうがなんだろうが麗くんの意思だ。少しは育ての親として責任持てよ阿呆」
山瀬の言葉に、心が軽くなった気がした。
「そうか...」
拾ったペットの面倒は最後まできっちり見てやんねーとな...
「にしてもお前、好きな子の前だとそんなに女々しくなんのな。昔は色んな女侍らせてたくせに」
「なんの話だよ...大体侍らせてない。向こうが付き纏ってただけだ」
「へぇ〜?その割には結構たくさん女の子食ってたんじゃねーの?」
「昔の話だろ...」
「ま、麗くんが大きくなるにつれて段々それもなくなってったんだから麗くんパワーすげーよなぁ」
「知るか阿呆。麗が寂しがるからもう戻る。」
「はいはい。ほんとに自分勝手なんだから〜」
「じゃあな。」
「獅琉、お前麗くん手放したりすんなよ...麗くんのためにも、お前のためにも。」
「...あぁ」
獅琉は山瀬と別れて麗のいる部屋へと向かう。
ごめん、麗。
もう一度チャンスをくれ。
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