32 / 43

7-0side麗

麗の中の一番古い記憶は、獅琉が初めて麗を置いて仕事に行った日のことだ。 その日獅琉は何度も麗を振り返って、心配そうに出かけて行った。 その頃やっと一人で歩けるようになっていた麗は柚木と留守番していた。 最初は柚木に遊んでもらっていたが段々獅琉の姿が見当たらないのが不安になってきて涙が溢れる。ぽろぽと泣く麗を、柚木は必死になってあやしてくれた。 「んぅっ...ふぇぇ...しぃっ」 「麗さん、泣かないでください。夜になったら若帰ってきますから、ね?」 だけど、柚木に抱き上げられていても麗の心は不安でいっぱいだった。 「やぁ...しぃ、どこぉ...ふぇっ...」 「れーいさん、若と泣かないで待ってるって約束したじゃないですか?」 柚木に何を言われても首を振ることしか出来ない。 ただ獅琉がいないことが寂しくて寂しくて、早く獅琉に会いたくて。 獅琉がいない時間がこんなにも辛い時間だと、麗はこの時初めて知った。 その日から麗は獅琉がいないとご飯を食べることも満足に眠ることもできなくなった。 しー、はやくかえってきて...おねがい...ぼくいいこにするから... しーがいないといろんなところがいたいよ... しー、しー ぼくのいちばんだいすきなしー

ともだちにシェアしよう!