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山瀬と別れて部屋の前まで来た獅琉は、ドアが少し開いているのに気付いた。いつも部屋から出る時は鍵をかけて離れるようにしている。麗が、中からも外からも出ていかないように。
閉め忘れたか...?いや、そんなわけ...
しかし記憶を辿ってみても、つい数十分前のことが思い出せない。それほどまでに、麗の泣き顔を見て獅琉自身が混乱していた。
僅かに見えるドアの隙間から、麗の気配はしない。嫌な予感が胸をよぎる。
まさか...いや、そんなはずない。アイツは泣き疲れてまだ寝てるはずだ...
獅琉はバクバクと鳴っている心臓の音を聞きながら、ゆっくりとドアを開けた。
大丈夫、麗はまだ寝てる、と言い聞かせながら。
ドアを開くと、麗が大切にしていたぬいぐるみがちょこんと床に座るように置いてあった。白くい毛に覆われたそれは、数年前に麗にプレゼントしたもので。ぬいぐるみをいたく気にいっていた麗はほとんど四六時中傍に置いていた。
これ...麗の枕元に置いてきた筈なのに...
「嘘だろ...麗...っ」
急いで麗が寝ているはずの寝室へと向かった。キングサイズのベッドの上に、麗の姿はない。
頭が真っ白になった。
今までこの部屋に、獅琉の目の届くところに麗がいなかったことなんてない。
『お前は言葉が足りてないんだよ』
ついさっき山瀬に言われた言葉が頭をよぎった。
麗は泣いてたんだ...いい子にするからって...
それなのに俺は...そんな状態の麗を置いて何やってんだ。俺が向き合わなきゃいけないのは、麗と俺自身だ。
「くそ...っ...」
早く追いかけて見つけて抱きしめてやりたい。
きっとあの外の世界を知らない寂しがりなうさぎは泣いてる。
俺がいないと食事も睡眠もとれないような奴なのに…
本当に俺は馬鹿だ。
「麗...っ」
拳を強く握り締めて獅琉は部屋から飛び出した。
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