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8-3
力いっぱい中平の肩を掴んでこちらへと振り向かせた。
抱えられていたのは、やはり獅琉が探し求めていた人だった。
「お前…麗に何してんだ...」
無意識に出た低い声。中平の薄い肩を掴んだ手にも力が篭もる。返答次第では、この男をどうしてやろうかと頭の隅で冷静に考えていた。
一方の麗は、獅琉が来たことにびっくりしているのか大きな目が更に大きく開かれている。その顔をちらりと見やって小さく舌打ちをした。
こいつ目擦ったな...赤くなってる...
「えっ!?わ、若頭!?え?この子若頭の知り合い...隠し子!?」
突然現れて殺気を放つ獅琉を前にして、わたわたと慌てる中平。その反応から麗が悪戯されていたわけではないことを悟り、ひとまず安心した。
「麗、この馬鹿に何かされたのか?おいで、帰ろう。」
なるべく怖がらせないよう優しく麗に言って手を伸ばすが、麗は大きく肩を揺らして首を振る。
「麗?」
「...っや...ぼく、かえらない...っ」
そう言って中平の肩に顔を埋めた麗。再び頭の中が真っ白になった。
今なんて言った...?
「麗?どうしたんだよ...若が呼んでるぞ?ていうかお前ほんとに何者なの?あの、若...こいつ一体...」
ギリ、と奥歯を噛み締める。
気に入らねぇな。
今麗を抱いているのが俺じゃないことも、中平が麗の名前を呼んでいることも。
こんなんじゃ、最初から麗を手放すなんて出来るわけなかったんだ。
「お前、いつも脱走すんなって言ってんだろ。俺から逃げようなんていい度胸じゃねーか。中平、そいつよこせ」
「は、はい!」
中平から麗を受け取ってしっかりと両腕で抱える。
「迷惑かけたな。」
「いいい、い、いえ...!!!全然問題ないっす!!」
「ああ、くれぐれも麗のことは他の野郎共に言うんじゃねえぞ。」
「はい!!」
ピンと背筋を伸ばして首を縦に振る中平を、最後に一睨みしてその場を離れた。
「おりるのぉっ!や...ぁ!だって...しーがっ...」
麗はまだ腕の中で暴れているが、全て無視して部屋まで戻る。
分かってる。俺が出て行っていいって言ったんだ。
でももう、手放してやれない。
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