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9-1side麗
数瞬の逃亡劇も虚しく、見事に獅琉に見つかって、あっという間に部屋に連れ戻された。泣いても暴れても、獅琉は許してくれなくて、無表情な横顔を見上げては次から次へと涙が溢れてくる。
どうしてしーが怒ってるの?
ぼく、間違えた?
またなにか悪いことした?
お願い。嫌いにならないで。
嫌だ。しーに嫌われたら、僕は…
そのまま泣きべそをかきながらベッドに押さえ付けられて、どうして部屋から出たんだと問い詰められた。
その声はいつもと違って体の底から震え上がるような、低い怖い声だ。いつもこちらを優しく見つめてくれたはずの瞳も、今は濁って見える。
どうして、怒ってるの...?
勝手に外に出たから?
だって、だって…しーが…
自分の思う様に上手く話せなくてもどかしい。しゃくりあげる呼吸もまとまらない思考も、全部全部気に入らなかった。いい子にしないと、いけないのに。
ただパニックになってしまったように震える麗に、獅琉は小さく息を吐いて膝の上にその体を抱えあげた。
その体温に、強張った体から少し力が抜けるがそれでも涙は止まらない。
ぽろぽろと柔い肌を滑り落ちていく雫を、獅琉が丁寧に指先で拭っていく。
暫くそうしていると、獅琉がぽつりと呟いた。
「俺の話、聞いてくれるか」
俯いていた顔を上げてみると、真っ直ぐにこちらを見下ろす獅琉と目が合った。その目はどこか不安そうに揺れていて、胸の奥がどくんと音を立てる。
しーの話?なんだろう?
僕ちゃんと聞くよ。
そんなお顔しないで。
しーの話だったらなんでも聞きたいよ。
奥歯に力を込めて、少しうなずく。ふっと小さく笑った獅琉が、それを褒めるように軽く頭を撫でてくれた。
「怖かったんだ。お前が俺の前からいなくなるのが。麗が自分からここを出て行きたいって言うのが...。だから麗の気持ちも聞かずにあんなこと言った、悪かった...」
「...ぅ、...?」
予想だにしていなかったその言葉は、麗の涙を止めるには十分すぎた。
「お前をここに...いや、俺に縛り付ける気なんてない。いつかはここを離れて行くんだろう。だけど、俺は...、」
そう言った獅琉の顔は今までに見たことがないくらい苦しそうで。
「...っ...しー...?」
「ごめん...っ」
突然獅琉の香りがぶわりと濃くなって、目の前が真っ暗になる。閉じ込められた腕の中で、麗は戸惑うばかりだ。
どうしてしーが謝ってるの...?
僕、ここにいてもいいの...?
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