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余談のお話
快晴過ぎる今日はいい昼寝日和だ。
例の、飯塚先輩に告られ、条件付きのハメ撮り許可を貰い、飯塚先輩の処女をいただいたあの日から数日。ゴールデンウィークも終えて、寮生活ならではの久々感が現れず、わりと普通にクラスメイトと話す。
が、基本的に漫画小説を読み続けてる俺に話しかける奴等はあまりいなくて結構、楽な過ごし方をしていた。
まあ、それでもよく話す奴もいる。
「木下、ちょっといいかー?」
「んぁ?松村か」
松村 平三 という奴は一年の時からよく話しかけてくるイケメン野郎だ。
こいつが俺より顔のレベルが高い一人。男の、生徒会長様を彼氏に持つ最強者。
「なんかさー、不安でさー」
「待て、唐突過ぎだぞ」
状況もわからず喋り出す松村に左手を前に出しながらストップのポーズ。
始業式とともに行った席替えはいまだに変わらず、だいたい教室の真ん中辺りの席に当たってしまった俺はあまりどうどうとした行動が出来なくなっていた。
授業中の昼寝は当たり前、教科書を挟んで漫画を読むのも当たり前、たまにやる早弁も当たり前として過ごしていた今までのバチでも当たっただろうか。
正直、ツラいものがある。
それでも教師達に怒られた事がないんだけどな。
「実は近々、部屋が変わるんだけどさ」
「部屋が変わる?それってありなルールか?」
「あー……まぁ、会長の力というか……」
目を逸らす松村は俺の前席の椅子に座り始めた。
この行動からしてピンッ!とはやいぐらいに予想を立てる俺。
「ハッ、もしかして会長と一緒の部屋になるってか?」
小バカにするような煽りとともに興奮してくる体の中。
ガチホモ生徒会長×ノンケイケメンはウマいだろう。
「……」
「……イケメンが赤面とか」
こいつ等がまさにそういったジャンル。
あ、松村の場合はもう会長を愛しちゃってるレベルだから元ノンケと表記した方がいいか。
まぁそこはどうでもいい。
会長の正体もわかってないみたいだし、ただの“甘えん坊会長様”としか思ってない溺愛松村。
そう、我が校を仕切る生徒会長様の性格は、甘えん坊なんだ……いけるだろ、俺はウマいと思うね。
しかしこれが会長の正体というわけではない。――だって松村は甘えん坊な会長を知ってるわけで、そんな会長を相手にする松村は満足しているし。というか付き合ってる特権?
甘えたな会長を知っているのは自分だけ、という優越感に浸っている松村。
だから俺から会長の正体なんて言わなくてもいいんだろうよ。
「智志いるじゃん、中沢 智志」
「あぁ、あの平凡くん」
中沢 智志 とは同じクラスの、ある意味強者である平凡野郎。この世界での平凡くんはとても味を占めるものがある。
ついこの間、読んだ浮気攻めの相手も平凡受けだったが、それぐらい設定としては組みやすいジャンルだよな。
なんでも食えちゃう俺からしたら平凡攻めだって譲れないものだが。
「中沢と松村は同じ部屋だったな」
そんなわけで中沢とも仲良くはしているが、どこか俺に遠慮しているあの平凡野郎に俺も俺でどこか遠慮する態度で接している。
もっと近付き、もっと絡めたいと思っている俺からしたら邪魔な遠慮。
まぁ、中沢が考える“顔面格差社会”というもので悩む姿にしょうがない部分もあるんだろうが、あいつが思っているほど周りはなにもしないし、なにも“出来ない”から、俺ともっと絡んできてもいいような気もするけど。
「俺があの部屋出たら次の同室者が来るじゃないか。智志の性格は中身まで理解してくれないと馴染む間ずっと気まずい空気になりそうじゃない?」
「大丈夫だろうよ。あいつはその辺をちゃんと割り切ってるはずだし。……あいつの事よく知らないけど」
「くそー……心配だ……」
そう言って俺の机にぐだっと突っ伏す松村。実に邪魔だ。
ていうか、そこまで心配しなくてもマジで平気なはずなんだが……こいつの心配性はどこまで続くのか。
――なんて、考えると、俺と飯塚先輩の話は、しない方がいいような気が、してきた。
中沢ほどではないが松村も変に心配してくるだろう。つーか、俺が怒られる展開もあり得なくない。だって松村も“受け側”の気持ちがちゃんとわかる奴だから。
飯塚先輩の尻を慣らしたとはいえ何度も手間をかけてから突っ込んだものではない。
そんな綺麗な話は、
「中沢にはもう言ったのか?」
「んーん。なかなか言えなくてさー」
「それ逆に可哀想だぞ」
思いの外、勃ってしまったあの時――挿れることしか頭になかったから、ない。
「ちなみにいつ部屋出るんだよ」
「……明日、かな」
「うわ、最低……」
こいつ自分のことを心配した方がいいような気がするけど。
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