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余談のお話
――そんな放課後、鞄の中に忍ばせといたビデオカメラを持って誰もいない教室を撮り回る。
データの中身はもちろんない。
あり得ない失態だが、仮に落とした時の事を考えてちゃんとメモリーカードは俺の部屋の鍵付き引き出しに置いてあるから。
ちなみに両親の撮ってある秘蔵映像もそこにある。ラブラブな二組が映る、そのデータ。
ここで言わせてもらおうか。
俺の両親は俺が中学の時に、俺の知らないところで離婚をしていた。親権者は父親。
初めて聞かされたのは中学を卒業してそのまま高校に持ちあがった時だ。が、いつかはこうなるだろうと予想をしていた俺にとって驚きもなにもない。
小さい頃からやけに他の親達よりうちの親は冷めていると思っていたし。
でも息子である俺に対して俺と母親だけになれば甘やかしてくれて、逆に俺と父親だけになればいっぱいどこかへ連れて行ってもらっていたから。
個々からの愛情はたっぷり貰っていた。
息子の立場から言わせてもらえば、理解と割り切りが出来た俺に感謝してほしいぐらいだ。これってヘタしなくてもグレるルートだろ?
だが、俺はグレなかった。むしろインドアな生活を好み、両親どちらかと二人きりになれば遊んでいた。
護身術道場を経営する父親には教えてもらい、そこの生徒達といるのは楽しかったしな。
外で仕事をしていたバリバリのキャリアウーマンな母親には、その職場に連れて行かされては周りの人からキャッキャッと言われて大満足。
家でも同じだ。――けど二人が顔を合わせれば凍りついたかのようにピタ、とおさまったあの時にはつい笑いが出たけど。
まぁでも、愛情は貰い尽くした。
俺がそう思っただけで、二人はまだまだ甘やかしたいと後に聞いたが、俺が覚醒しちゃったからには自由を求める。
その覚醒とやらが、腐り道。
俺の父親はゲイで母親はレズ。たまたま二人が同性相手とキスしてる、なんてものを見てしまったせいでわかった事。
はじめは家で父親が、道場の生徒相手にソファーで。
さすがに最初は、ん?となったが思い返すとやけにスキンシップが多い父親とその生徒だと思った。生徒といってもその相手はもう三十路手前で『もうお前ここに来なくても凄い強ぇよ』とまで言った記憶がある。
だけど返されたのはなんとも苦い笑みで、俺は首を傾げながらその人の目の前から去った。だが、キスする二人を見て、納得。
父親といたいがために、通っているんだと。
そのまま続ける父親とその生徒。体を押し倒したのは父親で、いろいろ弄り始めた辺りで、目が合った――生徒と。
学校帰りでランドセルを背負ったままの俺と、組み敷かれている相手と、続ける父親。もちろん父親とも目が合ったさ。
気まずいと思ったのかその父親の口元を手で塞ぐ生徒相手にもごもごしながら普通に『おかえり、歩』と言ってきたからこっちも普通に、ただいま、と返した。
俺はその後なにも言わずに母親から、今日は学校から帰ってきたら仕事場に来てもいい、と言われていたのを思い出してランドセルを自室に投げ飛ばし、家から飛び出たのだ。
その時に感じたのは、異様なドキドキ。
次に、母親だ。
信じられないかもしれないが、この現場も父親のキスを見た同じ日だった。
母親の仕事立場は上司にあたる、出来た女。
受付嬢の綺麗な姉さんには――こんにちは――と言われて案内されるのも日課になってきた。けどさすがにもう場所なんて覚えていたからその時は一人で行くと言って走って向かったのが多分いけなかったんだと思う。
いつもなら受付嬢の人が母親のところに行く前に内線で伝えてから向かうのに、俺が一人で行っちゃうから、姉さんも次の仕事に取り掛かったんだ。
忙しなく動く大人たちを横目にまだ父親達のドキドキを感じながら、女子トイレの前を通ろうとした。化粧直しでチラリと見えた鏡越しには、母親が。
子供だから許される考えで女子トイレに入ってみたら、父親同様、同性相手にご立派なキスをどうどうとしていたのだ。
――うわ、ここもかよ!
小学生からしたら二度目の刺激はキツ過ぎた。マイナス的なキツいものではない。プラス的なキツいものでさらにドキドキは大きくなった。
また男とは違う、女同士のキスにガン見。
なんか……落ち着きがある……。
パッ、と隠れてチラッと目立たないように頭を出しながら見ていると、母親が俺と目が合った。――バチッと。
だから急いで【つづけてて】というジェスチャーをした俺は、そこから腐れ開花が始まっていた。
その後、父親からは男同士のものを。母親からは女同士のものを。
もちろん純粋ものであったが、そういった漫画をくれた。
どうでもいいが、二人は攻めにあたるらしく、だから仲が悪そうな雰囲気を出していたのかもしれない。
こんな教育を受けて育てば、両親の事情も把握出来てるし、家の金については二人からなんでもいいと言われていたし。自由を求めた結果、男子校の全寮制に夢を託して入学したのだ。
家を出る間際に別れを告げたのももちろん母親の時だけ、父親の時だけの場だった。
だから出来た息子、俺はこう伝えといたさ。
――俺はいなくなるから、なんでもしちゃっていいよ。
そしたらその二年後に離婚。その間にもちょくちょく二人に会っていたが、突如の告白に笑ったものだ。すぐに理解は出来たけど。
それでも俺との縁は二人からしたら切るはずもなく、俺からも切るわけもなく、個々でバラバラなまま仲良くしている。
吹っ切れたかのように二人には付き合っている同性――初めて見た人と変わらずの――相手。
そんな二組を撮るために、買ったビデオカメラ。
「あー……」
意味もなく黒板を撮ったあと廊下に出てみれば寮に帰るであろう中沢と松村が楽しそうに話してる姿がカメラにおさまった。
心配性なイケメン×平凡くんとか、これ絶対にイケる。
右ダイヤルに回しながらのズームを利用して撮っていると、とたんに松村が中沢に頭を撫ではじめた。
「なんだ……友達相手に萌えるとか、ラッキー」
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ごちそうさまです。
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