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余談のお話
見えなくなった中沢と松村にそろそろ俺も行くところに行こうと振り返った。
「わっ!ビビった!」
「……こっちこそ、急な大声で驚いたよ」
ら、そこには超ドアップの我が校の王子様がいた。
急いで左ダイヤルに回しながらズーム調整を行う。
「王司じゃないか、どうした?」
「木下君こそ。……カメラ?」
王司 雅也 。
面倒だからササッと説明すれば顔良し、性格良し、成績良し、運動神経良しの化け物。名字をもじっているのか親衛隊やファンからは王子様と呼ばれている。
「そ、カメラ。今も録画中だ」
「へぇ、いいカメラだね」
当たり前だ。
画質に音質は最高のなかの最高、持ちやすさを加え、保存方法も簡単で、一瞬の一瞬も見逃さないものだからな。
さっきの王司のドアップも驚いたが、こいつの肌の綺麗さに脱帽したところだ。
「そんな我が校の王子様はなにをしていたのかなぁ?」
AVノリみたいに舐めまわして撮る俺。だけど突然始まったそのノリは王司に伝わってないのか首を傾げながら、生徒会だけどとマジレスしてきた。
こいつはここまでのハイスペックでさらに付け足すように、生徒会役委員の副会長をしている。
「優男に見えて化けの皮を取ればバリタチの王司くーん?」
「木下君どうしたの?」
バリタチのホモは、女優の出るアダルトを見ないのか?
「王司くんのオナニースタイルはどんな感じですかぁ?」
俺の質問に、全く意味がわかっていないようで首を傾げるばかりの王司。
さすがにオナニーはわかるだろ。どうやって自慰をするんだってことなのに。いや、王子様は溜まったら誰かといつでもヤれる体勢だからオナニーとかしないんだろうな。
聞いた俺がバカだったよ。
「はぁ……松村――には、怒られるから中沢に今度やってみよう」
「……」
ははっ、生徒会長である五十嵐 順平 から危ない目で俺は見られてるというのに副会長からもそんな目で見られたらヤバいな。
黙る王司にAVノリはこれからやめようと思いつつ話題を変える。
「そういやテッちゃん知らない?」
「テッちゃん?……あぁ」
愛称で呼ばれてる教師の、テッちゃん。
教師というよりは、養護教諭と言った方が正しいな。
「鉄野 先生なら保健室にまだいるよ」
まだ保健室にいたか。
安心したような、そうでないような心に答えてくれた王司に礼を言いながら最後、やっぱり舐めまわすように全身を撮っといた。
売るつもりはさらさらにないが、売ったら売ったでここの生徒達はいくらほど出してくれるんだろうな?
金銭的な考えをするとそうとう儲かるな、と自分に呆れながら録画停止を一度押して閉じる小型画面にテッちゃんがいる保健室へ向かう。
テッちゃんこと鉄野先生とは学校の保健室の教師。周りの教師より若いためか兄ちゃん的な存在で男子校でも結構、人気の高い先生だ。
ただ、この人はホモの中のホモで男子校に回れてよかった、といつだがボヤいた事がある。
冗談なしでここの生徒を食ってんじゃないかと思われるほどのノリとスキンシップにテッちゃんは爆笑したあと、超小声で――食いました――と白状したのは良い思い出だ。
『へぇ!で、タチ?ネコ?』
なんて興味津々で聞いてたら、白状したあとの人間は限度が効かないのかよく喋る。まぁ、タチだったんだけど。
いい話も聞けていい気分に浸りながら脅し交じりで『俺が言っちゃったらどうすんですか?』なんて口にした。
するとよくわかっている人で、こりゃ人気にもなるわな、と頷く返事でまた笑いを誘ったわけだが。
“だってお前は楽しい事をより楽しくしたい人だから、言わないだろ”
「やぁ、テッちゃーん」
王司に会った影響か、多少の爽やかさを出しながら保健室に入れば煙草を吸う養護教諭。
ここは当たり前に禁煙だ。
「うわ、木下ノックぐらいしろって」
「ブレイクタイムですか?」
そして許可もなにもなく取り出すビデオカメラ。録画を静かに開始してテッちゃんに近付いた。
「そうだけど……なんだそのカメラは」
うはは、やっぱりみんなが最初に気になるカメラの存在。
今のテッちゃんからしたら俺だとちゃんとわかってくれながらも急いで煙草の火を消して、慌てたような姿を見せている。
「ただの撮影ですよ」
「別にお前は映画部でも新聞記者部でも写真部でもないだろ?」
「あんな幽霊部、誰が入るのか考えちゃいますね」
テッちゃん専用のディスクに座っていた横に椅子を持ってきて俺も座る。
異常に近い俺との距離に、なにか企んでいるのだとすぐ予想してくれるこの人が一番良い。説明要らずというか……まぁ今回はスタイルもスタイルだし、ちゃんと説明しなきゃ受け入れてくれないだろう。
最初の飯塚先輩のハメ撮りお相手は、テッちゃんに決定だ。
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